「前任者がやらかしたことを検証してはいけない」 なぜ日本の会社でタブーなのか:スピン経済の歩き方(3/7 ページ)
「前任者がやったことを細かく検証してはいけない」――。多くの日本企業でこのような慣習があるが、なぜ責任の所在をうやむやにするのだろうか。背景を探っていくと……。
巨大組織で散見される「あるある」
「ウチの会社ではそんなことしてないぞ」と怒るサラリーマンも多いだろうが、実はこういう組織は石を投げれば当たるほど日本にはある。先週、注目を集めた日本大学などはその典型と言えよう。
「日大のドン」と呼ばれた田中英寿・前理事長が脱税容疑で逮捕をされて12日後、ようやく会見を催した加藤直人学長は「田中前理事長と永久の決別し、影響力を排除します。今後一切、彼が日本大学の業務に携わることを許しません」と高らかに宣言。保留していた役員報酬や退職金も一切支給しないという。また、そこに加えて、大学運営の見直しを図るため、有識者からなる「再生会議」を設置するという。
ピュアな人々は「縁を切るのなら問題ナシ! マスコミもいつまでも叩くのではなく応援してやれ!」と拍手喝采をしているが、巨大組織の権力闘争がどういうものかを少しでも理解している人たちからすれば、これは明らかに「クサイものにフタ」という対応だ。
田中氏は25年以上も日大の権力の中枢にいた人物である。役職をなくして業務に関わらせなくとも、人的なつながりは健在だ。田中氏に恩義を感じている幹部は山ほどいる。つまり、ほとぼりが冷めたら、田中氏が大学の外から「リモート」で影響力を行使することなどいくらでもできるからだ。
そんな疑念は、田中氏のバックアップで学長ポストを射止めたと言われる加藤学長にも向けられる。会見では「個人的には田中の言うことを聞いてきたわけではない」とおっしゃっていたが、「日大の女帝」と言われている田中氏の妻が経営していたちゃんこ屋に年に3〜4回顔を出していると明らかにしたことから、「田中支配」を支える一員として、その恩恵を受ける側にいたことがうかがえる。
実際、昨年発刊された田中氏のヨイショ本、『炎の男 田中英壽の相撲道』(幻冬舎)の帯では、加藤学長が顔写真付きで「推薦」している。こういう人の口から出る「永久決別」を素直に信じろというほうが無理がある。
ただ、これは日大に限らず、「ドン」として長く権力を握る人がいるあらゆる組織に当てはまる話だ。筆者も記者時代、ある巨大企業で長く権力を握ってきた後にクーデターで追放された会長に会ったことがある。この人は会社から追い出されたが、ホテルのスイートルームに、社内に残った自分の配下の人間たちを集めて、どうやって現社長を引きずり下ろそうかと作戦会議を開いていた。これはこの人だけではなく、巨大組織で多かれ少なかれ散見される「あるある」だ。
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