「4%賃上げ要求」は妥当か? 賃上げ騒動に覚える3つの違和感:これからの「労組」に求められるものは(4/4 ページ)
政府と連合が中心となり、賃上げを促す動きが出てきている。筆者は、この間の動きをウォッチしながら覚えた違和感があると解説する。果たしてその違和感の正体とは。
賃上げに限らず、テレワークを望む人と望まない人、副業したい人としたくない人など、他のさまざまな条件においても労働者間の希望は必ずしも一致しません。また、労働者に該当するのか否かが議論されているギグワーカーなどの働き方を希望する人もいます。これらの働き手たちもいわば“働く仲間”であり、労働組合の助けを必要とする人たちであるはずです。
連合がWebサイトに掲載している「連合ビジョン」には、目指す社会の姿として次のように記されています。
“「持続可能性」と「包摂」を基底に置き、年齢や性、国籍の違い、障がいの有無などにかかわらず多様性を受け入れ、互いに認め支え合い、誰一人取り残されることのない社会です”
素晴らしいビジョンですが、「誰一人取り残されることのない社会」を実現するには、利害関係が対立することもある労働者同士が、互いを尊重して受け入れ合えるよう折り合いをつけることが必要です。
これからの「労組」の役割
以前「『一律賃上げは非現実的』 経団連が弱音を吐き、かつての『勝ちパターン』も崩壊した今、働き手はどうするべきか」という記事でも指摘した通り、今、個々の労働者の価値観や志向は加速度的に多様化しています。
多様化が進めば進むほど、労働者は一律の存在ではなくなっていきます。かつては労使間に集約された対立構造も、今では労働者間で生じやすくなっています。誰一人取り残すことなくサポートしていくには、個々に異なる労働者の希望に耳を傾け、一方の立場に偏るのではなく、それぞれを個別に支援する機能が必要です。逆に、もしそれができなければ、少数派の労働者は取り残されてしまうことになります。
厚生労働省が公表している労使関係総合調査によると、20年6月30日時点における労働組合の推定組織率は17.1%。労働組合活動を自分ゴトと捉えている労働者は2割に届きません。労働者の多様化に、今の労働組合の機能が追い付いていないことが如実に表われている数値に見えます。
しかし、連合を始めとする労働組合は、組織率が低迷する今も労働者にとって心のよりどころの一つであり、頼れる存在であることも事実です。これからの社会に必要な労働組合の役割は、労使関係の構築だけではなく、年齢や性、国籍の違い、障がいの有無、一人一人の価値観や志向の違いなど、時に利害関係が相反することもある多様な労働者それぞれに寄り添いながら、ダイバーシティー&インクルージョンを促進していくことなのだと思います。
著者プロフィール・川上敬太郎(かわかみけいたろう)
ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する“働く主婦・主夫層”の声のべ3万5000人以上を調査したレポートは200本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。
現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役、JCAST会社ウォッチ解説者の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。
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