旧車ビジネスが拡大するワケ レストアでクルマは新車状態に:高根英幸 「クルマのミライ」(5/5 ページ)
日産自動車とその関連会社や部品メーカーが、30年乗り続け26万キロもの走行距離に達した日産シーマを8カ月かけてレストア作業を行い、新車のような状態まで復元したことが話題になっている。
単なる復元ではなく、機能を充実させた仕様も
旧車のボディを利用しEVへコンバートする作業は、日本でもかなり昔から専門業者の手により行われてきたが、ここ1、2年で欧米では需要が高まり業者も急増している。1930年代から50年代のクラシックカー、それも当時の高級車をEV化して日常的に乗り回すのは、かなりクールな振る舞いといえる。それを先取りしようとしているのだろう。
さらに近年は旧車を元通りに復元するのではなく、新しい機能を追加するカスタムを盛り込む傾向もある。これはレストアとモディファイを組み合せた造語、レストモッド(RESTMOD)と呼ばれている。
旧いポルシェ911のボディシェルに最新のチューニングエンジンと快適装備を搭載したマシンや、ルノー5ターボをより過激に進化させたモデルなど、往年の名車を現代風にアレンジして本来の個性を魅力に的にしている。
日本は車検制度の問題から、こうしたモディファイが難しくハードルが高い。しかし近年は外圧による規制緩和の影響で、カスタムしても車検を取得しやすい環境になってきた。
むしろ最近のクルマの方が音量規制などが厳しくモディファイの範囲が限られる。旧車の方が排ガス規制も緩かった分、そこからの改良には寛容なのだ。
前述のクラシックミニの業界では、60年代の1000ccキャブ仕様のエンジンを1300ccのインジェクションに載せ替えたり、クーラーではなくエアコンにグレードアップしたり、ブレーキやサスペンションなどもより安全で快適な仕様へとカスタムして楽しむユーザーを専門店がサポートしている。
クラシックカーとしての価値を維持したいのであれば、オリジナルの構造や造形のまま保存すべきなのだろうが、日常的に走りを楽しみたいのであれば、より快適な仕様へのモディファイも無理のない範囲で楽しみたいものだ。内容によっては、オリジナルの状態に戻すことも可能なのだから。
日本車の旧車もネオクラシックと呼ばれる80年代以降のモデルたちのオーナーには、オリジナル派とカスタム派に分かれており、最新のパーツによってカスタムとコンディション回復の両立を図るオーナーも少なくない。
環境性能を高めることもモディファイによって可能になる。フルコン(汎用の高性能ECU)の高度化によって制御系が確立されれば、FR車のリアデフにモーターを追加することでハイブリッド化も可能になるだろう。インジェクターや点火系の改善でオリジナルより燃費性能を高めることも可能だ。
これは新車市場の500万台と比べれば、ホンのわずかな市場規模であることは確かだ。しかし今後、カーシェアリングや自動運転タクシーなどが普及すれば、新車市場は急速に縮小するのに対し、個人所有のクルマに関してはより多様化が進み、ネオクラシックカーを楽しむユーザー層は根強く残っていくことは間違いない。
3Dプリント技術の普及によりコストダウンが進めば、旧車の部品供給問題も解決できる。代替燃料も実用化されればカーボンニュートラルでエンジン車を楽しむことも可能になるのだ。趣味の世界として旧車はこれからも残っていき、周辺ビジネスも今よりも市場規模は広がりを見せるだろう。
筆者プロフィール:高根英幸
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmediaビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。近著に「ロードバイクの素材と構造の進化(グランプリ出版刊)、「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。企業向けやシニア向けのドライバー研修事業を行う「ショーファーデプト」でチーフインストラクターも務める。
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