日本は遅れてる!? 中学受験ドラマ『二月の勝者』をきっかけに考える、教育とビジネススキル:背景を考察(4/5 ページ)
中学受験を扱った『二月の勝者〜絶対合格の教室〜』がドラマ化された。新しい時代に対応した問題を出す中学・高校が増えているという。教育の観点からこれからのビジネススキルを考察する。
スポーツ強化の観点から生まれたライフスキル
ところで、21世紀型スキルとよく似た概念に「ライフスキル」というものがある。下の表のように、自己認識やコミュニケーション能力など10のスキルで示されることが多い。このライフスキルは、もともと1980年代に米国のカレッジスポーツの指導の中から生まれたといわれている。世界的に認知されたのは、98年にWHO(世界保健機関)が21世紀を迎えるにあたって「生きる能力を高める指針」として提唱したことがきっかけとされている。OECDによるコンピテンシーの研究開始と重なる時期である。また、20世紀末の社会情勢とそこから発生してくるさまざまな課題を踏まえて、21世紀をいかに迎えるかの提言である。それだけに、内容的には21世紀型スキルとオーバーラップしていると思う。
M&Aの経営統合にも必要とされるライフスキル
改めてライフスキルの表を見てみると、挙げられた10のスキルセットはどれも分かりやすく書かれており、ビジネスパーソンにとっても実践しやすい内容であるといえる。
例えば、21世紀型スキルの一つであるコミュニケーション能力は、ライフスキルにおいて「意見・要望・欲求・恐れなどの表明や、それらへの助言を求められる力」として非常に明確な視点が与えられている。しかも、「言語的・非言語的に自分を表現する能力」とも説明されている。プレゼン資料のビジュアルも重要なコミュニケーション能力だということだ。
また、ビジネスを行う際には必須となる感情の抑制や、その代償としてどうしても発生してしまうストレスに対する対処も必要だとしている。それぞれをどうやって身につけたら良いかという詳細は本稿の目的ではないので深掘りしない。いずれにしても、このように体系化されているスキルセットがもう少しビジネスの場で認知され、その実践を通して欧米に比べて遅れている21世紀型スキルの教育を補完したいものである。
このライフスキルについてM&Aの観点からコメントしよう。買収後の経営統合を行う際に、買収者から派遣される新経営陣が持つべきスキルだともいえる。特にクロスボーダーM&Aの場合、言語の違いはもちろん、商習慣、宗教観、従業員のキャリアに対する考えなどが日本とは相当異なる。そのため、買収した先の経営統合は困難を極めることが多い。第1回のコラムでも書いたように、社運をかけた大型のクロスボーダーM&Aが、経営統合の不備から失敗してしまった例は少なくない。私の所属している会社は、買収後の経営統合のアドバイザリーを提供しているのだが、派遣される経営陣に対するライフスキル習得のアドバイザリーもメニューに加えることを検討したい。
繰り返しとなるが、このライフスキルはスポーツの指導の中から生まれてきた。日本における研究の履歴を調べると、2000年初頭から体育教育におけるライフサイクルの適用などの論文が出てくる。1998年のWHOの提言を受けてすぐに実証研究が始まったようだ。私の息子は10年ほどサッカーをしているが、サッカーを始めた頃には、既にさまざまなサッカー情報誌でライフスキルが紹介されていた。スポーツの現場への定着はそれなりに進んでいる印象を受ける。
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