「今のうち、切っちゃえ!」と続く黒字リストラ──厳しくなる労働環境の中、生きる策:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(4/4 ページ)
希望退職を募る企業が増えた2021年。コロナ禍で業績不振な企業だけでなく、いわゆる「黒字リストラ」を行う企業も少なくない。終身雇用が崩壊し、厳しくなる労働環境の中、私たちはどのような心構えで働くべきなのか──?
しかし、どれだけ経営者を批判したところで、バブル世代をターゲットにしたリストラは今後も続いていくでしょうし、希望退職の年齢が引き下げられていくのも避けられない事実だと思います。と同時に、賃金が上がっていく可能性も低い。
つまり、これまで散々厳しい状況に置かれてきた“氷河期世代”が、さらに打撃を受けることになる。こんな理不尽を許して本当にいいのでしょうか。いいわけない!
コロナ禍で、非正規雇用で働く多くの人たちが、仕事を失ったり、シフトを減らされして、たちまち生活が苦しくなりました。なのに、これまで私が主張しているような、「非正規=有期雇用を禁止する」「やむをえず有期雇用をする場合は、会社にインセンティブを与えているという理由から無期雇用(正規雇用)より高い賃金設定にする」といった議論は全くされていません(関連記事)。
労働者全体の4割近くまで増えた非正規の賃金を時給ベースで見ると、正社員の平均時給が2500円であるのに対し、派遣社員は1660円、パートタイムは1050円です。この数字を見れば、会社はコロナという100年に一度のパンデミックを経験し、なるべく雇用を維持しなくていい、非正規雇用に依存していくに違いありません。
この歴然たる事実を私たちはしっかりと受け入れ、会社を利用する働き方に変える必要があります。「利用する」などというと、まるで悪いことのように思われるかもしれません。しかし、働くことにどう報いるか? は、その国の本質的な「人」への考え方であり、価値観です。
日本の賃金の低さの最大の要因は、低賃金の非正規労働者が急増したことにありますし、それを改めるつもりも、悲しいかな、今の日本にはありません。
だとすれば、会社を利用し、会社員だからこそ使えるリソースをできるだけ多く使い、自分のスキルを向上させ、常に「自分を必要としてくれる会社=転職」を意識した働き方をするしかない。その方が、豊かな人生を送れるはずです。
今年は例年以上に、厳しい雇用環境や貧困に関する話題を取り上げてきました。
来年は、「自分を必要としてくれる会社=転職」を意識した働き方をするには、どうすればいいのか? どういう心持ちで入社すればいいのか? どう人たちと接するといいのか? どういう関わり方をすればいいのか? という話をできる限り取り上げようと考えています。
では、また来年も引き続きお付き合いくださいませ。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)がある。
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