松屋銀座で使える日本円連動ステーブルコイン「JPYC」が伸びている理由(4/5 ページ)
ステーブルコイン「JPYC」がじわじわと使われ始めている。JPYCとは仮想通貨イーサリアムのブロックチェーン上で発行された「前払式支払手段扱いのステーブルコイン」だ。JPYC社が1月に発行を開始した。発行総額は11月時点で3億円超。日本で個人が入手して利用できる円建てデジタル通貨としての存在感を持ってきた。
日本はステーブルコインで立ち遅れた
冒頭でお伝えしたように、日本では「円連動の仮想通貨、発行は銀行・資金移動業のみ」と報道された。これは公式発表ではないが、仮想通貨業界の人々は「既定路線だ」と受け止めている。一方、JPYC社の岡部氏は「我々には影響はない」と語る。JPYCには法的根拠がすでに存在するためだ。
ステーブルコインは、もともとは仮想通貨(暗号資産)の一種として台頭した。米ドル連動のTether(USテザー)、USDC(USDコイン)、DAI(ダイ)などが流通している。米ドル連動のステーブルコインは、8月の段階で総額約12兆円が発行済み。仮想通貨のように扱えるステーブルコインは、値動きが激しい仮想通貨と併せて取引や投資のツールとして盛んに使われている。ところが日本円建てステーブルコインはなかなか立ち上がらなかった。
2017年、日本円建てステーブルコインの実証実験として「ZEN」(JPYZ)が発行されている。だが一般市場に流通するには至らなかった。
GMOインターネットの米国子会社GMO-Z.com Trust Company(GMO Trust)は、3月より円連動ステーブルコイン「GYEN」を発行している。ただし日本に住む人々はGYENを購入できない。GYENは米国銀行法を準拠法とし、海外の取引所だけで取り扱われている。
日本でステーブルコインが立ち遅れている理由は法規制だ。日本では、17年4月より施行された改正資金決済法により仮想通貨(現在は暗号資産)の法的枠組みを定めた。仮想通貨の法整備の時期としては、世界的に見ても早かった。ただし、このとき仮想通貨を「通貨建て資産を除く」ものと定義した。法定通貨に対して値動きを抑えるステーブルコインは考慮されていない。日本でのステーブルコインの法的枠組みが定まらないまま、4年以上の時間が空費された格好だ。
報道された「銀行が発行するステーブルコイン」は、すでに準備が進んでいる。法人向けに銀行発行の民間デジタル通貨を目指すDCJPYを、デジタル通貨フォーラムが準備中である。このフォーラムには三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行の3大メガバンクやNTTグループなど約70社が参加し、事務局として仮想通貨取引所のディーカレットが参加する。DCJPYは22年後半にも流通を始めると伝えられている。
これらのステーブルコインやデジタル通貨とは異なり、JPYCは資金決済法が定める前払式支払手段として発行される。前払式支払手段とは商品券、Amazonギフト券、交通系ICカード(Suicaなど)、プリペイドカード、それに〇〇Payと呼ばれる決済サービスなどで広く使われている決済手段だ。ブロックチェーン上の前払式支払手段としては、18年にスタートアップ企業LCNEM(現在はCauchyE)が「LCNEMステーブルコイン」を発行した事例があるが、大きく広がるには至らなかった。JPYCが使われるようになった背景には、前述したイーサリアムやPolygonの利用者がある程度のボリュームに増えていたことがある。
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