「名門銀行子孫」のあっけない幕切れ 新生銀行・SBI・金融庁、TOB騒動の背景に三者三様の失策:迷走・モラル欠如・皮算用(1/5 ページ)
TOBを巡る、新生銀行とSBIの騒動がひとまずの決着を見た。しかし、本当にこれでよかったのかといわざるを得ない幕切れとなり、疑問点は尽きない。今回の騒動を振り返りつつ、かかわった金融庁の打算を交えながら、総括を試みる。
インターネット証券大手のSBIホールディングス(以下、SBI)から敵対的TOBを仕掛けられた新生銀行。同行は臨時株主総会で防衛策の是非を問う予定でいたところ、総会の開催前日に防衛策の取り下げを発表し、総会も中止して、SBIの買収提案を受け入れることを決めました。本記事では、約3カ月超にわたる新生銀行を巡るTOB騒動を、当事者である新生銀行、SBIとキャスティングボードを握った「政府=金融庁」それぞれの立場から検証し、総括してみます。
新生銀行が最終的に防衛策の株主総会決議を諦めた理由は、約2割の議決権を持つ政府が新生銀行の防衛策に賛成しない方針を明らかにし、総会で否決される可能性が高まったからに他なりません。SBIに仕掛けられた敵対的TOBによる買収圧力へ必死に抗った新生銀行でしたが、主要株主である政府の判断によって引導を渡されたという構図です。わが国の高度成長を支えてきた名門・日本長期信用銀行(長銀)の流れをくむ新生銀行は、金融界の新興勢力であるSBIの傘下に入ることが決定的となりました。
新生銀行がなぜ敵対的TOBを仕掛けられることになったのか、まずこの点から考えます。
SBIは以前から新生株を買い集めつつ、連結子会社化をにらんだ経営統合を持ち掛けていました。しかし新生銀行はこれに応じず、それどころかその後SBIの同業ライバルであるマネックス証券と金融仲介業務で包括提携を結んだことでSBIが激怒。これが引き金となって新生銀行サイドの了解を得ぬまま「敵対的TOBを辞さず」という強硬手段に出た、というわけです。
これまでの常識では、わが国の大手銀行に対する敵対的TOBなど、超えるべきハードルが高すぎて成立するはずがないと思えたのですが、今回それが比較的スムーズに成立に向かってしまったのには、新生銀行が背負ってきた重たいツケが背景にあるとみます。
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