スタッドレスタイヤはどうして氷上でもグリップするのか:高根英幸 「クルマのミライ」(2/4 ページ)
雪道ではスタッドレスタイヤやタイヤチェーンなどの装備が欠かせない。スタッドレスタイヤに履き替えていれば、大抵の氷雪路では問題なく走行できる。しかし、そもそもスタッドレスはなぜ氷雪路でも走行できるのか、考えたことがあるだろうか。
さまざまな素材を配合して氷雪路での性能を確保
タイヤの接地面に使われているゴムには、さまざまな技術が投入されている。まずは素材だ。
メインは石油由来の合成ゴムだが、ゴムの木から採取される天然ゴムも優れた特性があり、一定の配合率で利用されている。そのためタイヤメーカーは、ゴムの木を植樹することで資源の確保とCO2の吸収に貢献していたりする。
その他にも強度を高めるカーボンブラックや、ゴムをしなやかにするためのオイル、ゴムの劣化を抑制する劣化防止剤、低温性にも優れ撥水性を向上させて転がり抵抗を軽減するシリカなど、ゴムにはさまざまな素材が配合されている。それらを混ぜ練り合わせて作り上げることからコンパウンドと呼ばれるのである。
トレッド面の剛性を高めるスチールベルトやホイールとの結合を高めるビードワイヤーなど、構造部分まで含めると20種類以上の素材が使われている。スタッドレスの場合、さらに素材への工夫が凝らされている。
夏タイヤに比べたスタッドレスなどの冬タイヤの特徴の1つが、低温下でもゴムが硬くならないことだ。これはオイルを多く含ませる方法や、天然素材の利用や気泡の採用などによって実現している。
例えばブリヂストンは発泡ゴムと呼ぶ、スポンジ状にしたゴムをトレッド面に使うことで、スタッドレスタイヤに求められる性能を引き上げている。気泡を連続的につなぎ合わせることで路面の水膜を吸収し、グリップさせるのだ。
また発泡ゴムは、ゴムが硬化してもトレッド面のしなやかさを維持しやすいのも、大きな魅力だ。元々オイルに頼ることなく柔らかいコンパウンドを実現しているため、走行による運動や発熱によってオイルが抜けてしまうことも少ない。そのため、保管状態や使い方によっては驚異的なほどトレッド面の柔軟性を長期的に保つのである。そのため一般的にスタッドレスタイヤの寿命は3年から5年といわれるが、それを大きく超えても柔軟性を保っていることが多い。
すでに特許は切れているようだが他社が追随しないのは、これまで培ったノウハウがほとんど使えなくなってしまうため、イチから開発をやり直すリスクと、発泡ゴムの効果を天秤にかけると採用できない、という理由が大きい。また発泡ゴムによる生産コストの上昇を価格に転嫁できない、と考えているメーカーもあるようだ。
難点は舗装路を走ると摩耗しやすい、ということだろう。発泡ゴムは気泡を含んでいる分、磨り減りやすい。しかしこれも氷雪路での性能を考えれば仕方のないところ。安心を買っているという点では保険のようなものだ。
関連記事
- ガソリンには、なぜハイオクとレギュラーがある?
どうしてガソリンにはハイオクとレギュラーが用意されているのか、ご存知だろうか? 当初は輸入車のためだったハイオクガソリンが、クルマ好きに支持されて国産車にも使われるようになり、やがて無鉛ハイオクガソリンが全国に普及したことから、今度は自動車メーカーがその環境を利用したのである。 - 高速道路の最高速度が120キロなのに、それ以上にクルマのスピードが出る理由
国産車は取り決めで時速180キロでスピードリミッターが働くようになっている。しかし最近引き上げられたとはいえ、それでも日本の高速道路の最高速度は時速120キロが上限だ。どうしてスピードリミッターの作動は180キロなのだろうか? そう思うドライバーは少なくないようだ。 - シフトレバーの「N」はなぜある? エンジン車の憂うつと変速機のミライ
シフトレバーのNレンジはどういった時に必要となるのか。信号待ちではNレンジにシフトするのか、Dレンジのままがいいのか、という論争もかつては存在した。その謎を考察する。 - 旧車ビジネスが拡大するワケ レストアでクルマは新車状態に
日産自動車とその関連会社や部品メーカーが、30年乗り続け26万キロもの走行距離に達した日産シーマを8カ月かけてレストア作業を行い、新車のような状態まで復元したことが話題になっている。 - 全固体電池は、なにが次世代なのか? トヨタ、日産が賭ける巻き返し策
全固体電池とは、電解質を固形の物質とすることで、熱に強い特性を得ることができる電池のことだ。以前は理論上では考えられていただけであったが、固体電解質でリチウムが素早く移動できる物質が見つかったことで、開発は加速している。 - 車検制度はオーバークオリティー? 不正も発覚した日本の車検の意義
自動車メーカーが、生産工場からの出荷時に行う完成検査で不正をしていたことが明らかになったのは2017年のことだった。そして今年は、自動車ディーラーでのスピード車検で不正があった。日本の乗用車に関する法整備は昭和26年(1951年)に制定された道路交通法、道路運送車両法によって始まっている。その中には幾度も改正されている条項もあるが、全てが実情に見合っているとは言い難い。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.