スタッドレスタイヤはどうして氷上でもグリップするのか:高根英幸 「クルマのミライ」(3/4 ページ)
雪道ではスタッドレスタイヤやタイヤチェーンなどの装備が欠かせない。スタッドレスタイヤに履き替えていれば、大抵の氷雪路では問題なく走行できる。しかし、そもそもスタッドレスはなぜ氷雪路でも走行できるのか、考えたことがあるだろうか。
ユーザーにおいてもブリヂストンのブリザックは価格が高いというイメージがある。高くても滑りにくい、安心感があるため支持されているが、他の国産メーカーはワンランク価格帯を下げてユーザーを獲得している。
さらに各メーカーに共通した傾向として、スタッドレスタイヤは最新モデルがデビューしても、従来品も数年間は生産が続けられる。旧製品は開発コストを回収した商品として価格が引き下げられ、低予算でも十分な性能を発揮するスタッドレスタイヤとして提供することで、シェアを確保しているのだ。
保管状態や使い方によってもスタッドレスタイヤの寿命やグリップ性能は大きく変わってくるが、同じように使った場合、欧州やアジアメーカーのタイヤに比べ、国産メーカーのほうが経年劣化が少ない傾向がある。これは欧米と日本では年間走行距離の違いからタイヤの耐用年数にも差があり、日本のユーザーは比較的長く1セットのスタッドレスを使い続けることを考慮しているからだろう。
欧州のタイヤメーカーも日本で販売しているスタッドレスタイヤは日本でも開発しているが、やはり国産メーカーの製品の方が日本市場にはマッチしている印象だ。またスタッドレスに限らず、価格の安さで日本市場に浸透してきたアジアンタイヤも、最近は性能と価格で二極化する傾向にある。ユーザーにとっては選択肢が増えるのは嬉しいだけでなく、取捨選択する際の悩みにもなるので難しいところだ。
トレッドパターンの工夫でも氷雪性能を確保
スタッドレスタイヤが氷上でもグリップするメカニズムは、形状によるところも大きい。形状に関してもスタッドレスは夏タイヤ以上に工夫が盛り込まれている。
ブロックに細かいサイプ(切り込み)を入れることで、毛管現象を利用して氷表面の水膜を吸収すると共に、ブロックが接地面で倒れ込むことによりサイプのエッジが氷に貼り付くようにグリップ力を発揮する。
初期のスタッドレスタイヤは、サイプの影響でブロック剛性がひどく低下し、ドライ路面の首都高速など怖くて走れたものではなかった。しかし現代のスタッドレスはより細かく深いサイプを採用していながら、ドライ路面での安定性も高まっている。
これは3Dサイプと呼ばれるもので、内部で立体的な形状とすることにより、両隣のサイプと干渉して支え合う構造を実現している。このサイプを実現するための金型は企業秘密としてどのタイヤメーカーも公開していない。それくらいスタッドレスの生産技術は企業秘密が多いのである。
関連記事
- ガソリンには、なぜハイオクとレギュラーがある?
どうしてガソリンにはハイオクとレギュラーが用意されているのか、ご存知だろうか? 当初は輸入車のためだったハイオクガソリンが、クルマ好きに支持されて国産車にも使われるようになり、やがて無鉛ハイオクガソリンが全国に普及したことから、今度は自動車メーカーがその環境を利用したのである。 - 高速道路の最高速度が120キロなのに、それ以上にクルマのスピードが出る理由
国産車は取り決めで時速180キロでスピードリミッターが働くようになっている。しかし最近引き上げられたとはいえ、それでも日本の高速道路の最高速度は時速120キロが上限だ。どうしてスピードリミッターの作動は180キロなのだろうか? そう思うドライバーは少なくないようだ。 - シフトレバーの「N」はなぜある? エンジン車の憂うつと変速機のミライ
シフトレバーのNレンジはどういった時に必要となるのか。信号待ちではNレンジにシフトするのか、Dレンジのままがいいのか、という論争もかつては存在した。その謎を考察する。 - 旧車ビジネスが拡大するワケ レストアでクルマは新車状態に
日産自動車とその関連会社や部品メーカーが、30年乗り続け26万キロもの走行距離に達した日産シーマを8カ月かけてレストア作業を行い、新車のような状態まで復元したことが話題になっている。 - 全固体電池は、なにが次世代なのか? トヨタ、日産が賭ける巻き返し策
全固体電池とは、電解質を固形の物質とすることで、熱に強い特性を得ることができる電池のことだ。以前は理論上では考えられていただけであったが、固体電解質でリチウムが素早く移動できる物質が見つかったことで、開発は加速している。 - 車検制度はオーバークオリティー? 不正も発覚した日本の車検の意義
自動車メーカーが、生産工場からの出荷時に行う完成検査で不正をしていたことが明らかになったのは2017年のことだった。そして今年は、自動車ディーラーでのスピード車検で不正があった。日本の乗用車に関する法整備は昭和26年(1951年)に制定された道路交通法、道路運送車両法によって始まっている。その中には幾度も改正されている条項もあるが、全てが実情に見合っているとは言い難い。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.