「人事データを人員配置、退職予測に使いたい」──その前に準備すべき3つのこと:連載「情報戦を制す人事」(3/3 ページ)
「人事データを活用して戦略的な配置や退職予測を行いたい」と考える企業は多いが、当初の目的通りの効果を得られないケースも少なくない。目的達成に向けて頓挫することなく、有効に活用するためには?
人事データ活用を頓挫させないために 知っておくべき3つのこと
では、今後人事データ活用を推進する場合、どのような点を押さえておくとよいでしょうか。ここでは3つの観点を記載します。
(1)データ活用を推進するための2つの軸
データ活用は「データの活用レベル」×「データ活用のテーマ」の2軸をもとにし、徐々に拡大していくことが頓挫せずに推進できる大きなポイントとなります。まず、データ活用のレベルは次のように定義できます。
(参考:トーマス・H・ダベンポート、ジェーン・G・ハリス「分析力を武器とする企業」日経 BP 社)
- 1.データの収集、定義ができていない
- 2.データの収集、定義はできているが、データが散在している
- 3.データの収集や定義、集約はできているが、活用のための基盤が構築されていない
- 4.基盤化されたデータ収集システムは存在しているが、分析や戦略への寄与はできていない
- 5.基盤化されたデータ収集システムや分析ツールで、利用者の実務へ貢献できている
一方で、活用のテーマは下記のような形で定義します。
- 1.限定的な人事情報を活用
- 2.広範囲の人事情報を活用
- 3.人事データと他のデータを組み合わせて活用
- 4.将来予測、シミュレーションの実施
例えば、さまざまな種類の人事データを活用して要員管理シミュレーションを目的に置いてから推進する場合で考えてみます。この場合、データ活用のレベルが2であれば先にその解決が必要であり、活用テーマの2がまだ実現していない場合は、分析に必要なデータが不足しているため、十分なシミュレーション結果が得られない可能性があるでしょう。
また、当初の実施目的の達成ができない場合、社内的に人事データ活用というプロセス自体に疑問が呈され、否定されることにもつながりかねません。
従って、自社のデータ活用レベルと活用テーマの大きさの現在地を正しく把握することが出発点であり、実現性のある推進計画を立てることが基本となります。
(2)データ状況の把握
人事部門として最初に行うべきポイントとしては、現在、どのように人事関連のデータを管理できているかの把握です。一般的に、人事データを利用して指標化するような情報には下記が挙げられます。
- 人員数に関するデータ:年齢構成、男女比、勤続年数、管理職割合、休職率、離職率推移
- 人件費に関するデータ:部門別人件費
- 労務管理に関するデータ:時間外、在宅勤務/テレワーク率、有給休暇消化、残業手当推移、36協定超過状況
試しに、現時点で出力可能なデータ群で、上記に関する統計データを作成してみましょう。
その中で、入っていないデータがあったり、別途読み替えが必要となるようなデータがあったりする場合、まずデータの定義や整備を行うことを推奨します。
(3)データ活用の目的(GOAL設定)を定義する
そしてデータ活用の目的を定義することが必要となります。定義内容は、「誰の」「何の業務に」「どのようなメリットが存在するか(提供者の業務やアクションがどう変化するか)」を言語化することです。
目的のないデータ収集や分析は、単にプロジェクトメンバーの工数や利用ツールの費用が無駄になるだけではなく、真に必要なデータ活用においても疑念を持たせる結果となります。
また、それだけのコストを投入してまでメリットを生み出すことができるのか、仮説を持ったうえでスタートすることが必要です。
一方で、実施してみなければ分からないこともあります。特に、経営層や上位層からのオーダーであれば、何らかの結果をレポートしたうえで、今後のアクションを相談したほうがよいでしょう。
そのためには、データ活用はいきなり全社的、多次元的な目的をターゲットとするのではなく、段階的に実施していくことが現実的なアクションとなります。
株式会社Works Human Intelligence
大手法人向け統合人事システム「COMPANY」の開発・販売・サポートの他、HR 関連サービスの提供を行う。COMPANYは、人事管理、給与計算、勤怠管理、タレントマネジメント等人事にまつわる業務領域を広くカバー。約1,200法人グループへの導入実績を持つ。
関連記事
- 「部下を育てられない管理職」と「プロの管理職」 両者を分ける“4つのスキル”とは?
日本企業はなぜ、「部下を育てられない管理職」を生み出してしまうのか。「部下を育てられない管理職」と「プロの管理職」を分ける“4つのスキル”とは? 転職市場で求められる優秀な管理職の特徴について解説する。 - 「優秀だが、差別的な人」が面接に来たら? アマゾン・ジャパン人事が本人に伝える“一言”
多様性を重視するアマゾン・ジャパンの面接に「極めてだが優秀だが、差別的な人」が来た場合、どのような対応を取るのか。人事部の責任者である上田セシリアさんに聞いた。 - 「指示待ち」「官僚的」な社風が一変 湖池屋の好業績の陰に“人事改革”あり その中身は?
湖池屋の業績が伸びている。もとは「指示待ち」「官僚的」だった社風を改革したことが、要因の1つのようだ。組織の文化や風土の変革など、湖池屋を変えた人事改革に迫った。 - 「売り上げが落ちてもいいから、残業をゼロにせよ。やり方は任せる」 社長の“突然の宣言”に、現場はどうしたのか
「来年度の目標は、残業時間ゼロ」──社長の突然の宣言は、まさに寝耳に水の出来事だった。準備期間は1カ月。取り組み方は、各部門に任せられた。現場はどう対応したのか?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.