このままでは“一億総非正規”待遇に!? 郵政は「正社員の休みを減らし格差解消」:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(4/4 ページ)
「非正規社員の賃金が上がる」と期待が寄せられた同一労働同一賃金。しかし日本郵政グループは、正社員と非正規社員の格差是正を求める訴訟の結果、「正社員の休みを減らし格差を解消する」という提案を出した。こうした事例から、日本企業にはびこる“経営者問題”の根深さが見えてくる。
日本の働く人たちの能力は世界的に見ても高いのに、「人」を見ていないのです。
13年に初めて公表された「OECD国際成人力調査(PIAAC:Program for the International Assessment of Adult Competencies/Survey of Adult Skills)」で明かされたのは、日本人の能力の高さです。
PIAACは「経済のグローバル化や知識基盤社会への移行に伴い、雇用を確保し経済成長を促すために国民のスキルを高める必要がある」との認識から、24カ国・地域が参加し実施された大規模な国際調査です。
対象は16歳から65歳の成人で、日本では住民基本台帳から層化二段抽出法で1万1000人を抽出。うち約5200人が参加し、調査項目は「仕事や日常生活で必要とされる汎用的スキル」として、次の3つの分野を網羅しています。
「読解力」
社会に参加し、自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発展させるために、書かれたテキストを理解し、評価し、利用し、これに取り組む能力
「数的思考力」
さまざまな状況の下での数学的な必要性に関わり、対処していくために、数学的な情報や概念にアクセスし、利用し、解釈し、伝達する能力
「ITを活用した問題解決能力」
情報を獲得・評価し、他者とコミュニケーションをし、 実際的なタスクを遂行するために、デジタル技術、コミュニケーションツール及びネットワークを活用する能力
調査方法は250人の調査員が対象者の自宅を訪問し、専用のPCで2時間超かけて行うという、日本の社会調査では例のないほど手の込んだものでした。
その中で、日本の労働者の質は世界トップであることが分かっているのです。「読解力」「数的思考力」「ITを活用した問題解決能力」の3分野全ての平均得点で、日本は堂々の「1位」です。
郵政グループをはじめとする日本企業は、果たして、この「力」をきちんと経営に生かす努力をしているのでしょうか?
“経営者問題”に手をつけない限り、日本の未来はないと言わざるを得ません。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)がある。
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