なぜクルマのホイールは大径化していくのか インチアップのメリットとホイールのミライ:高根英幸 「クルマのミライ」(2/5 ページ)
振り返ればこれまでの30年間、全体的にクルマのホイール径はサイズアップされる傾向にあった。そのきっかけとなったのは、低扁平率なタイヤの登場だった。なぜタイヤは低扁平化し、ホイールは大径化するのだろうか?
「低扁平は高性能タイヤ」の始まり
タイヤの低扁平化を最初に始めたのは、ドイツだった。速度無制限(現在では一部分のみだが)のアウトバーンをもつドイツでは、60年代後半からクルマの高速性能が高められてきた。クルマの高速性能が高まれば移動時間が短縮できる=時間を買うことができる、という論理から、富裕層や高所得者層が高性能なクルマを要求していたのだ。
そこで70年代、ポルシェは911をより高性能化させるべくターボチャージャーを採用した930ターボ(現在、呼称は911ターボに統一)を開発した。ところが、その性能をカバーできるタイヤが存在しなかったために、ピレリに新しいタイヤを開発させたのである。それがチンチラートP7と呼ばれた、後に高性能タイヤの代名詞にもなったP7という扁平率50%のタイヤである。
余談だが、ポルシェ911はRR(リアエンジン・リアドライブ)という特異な構造ゆえ、トラクション性能に優れるが同時にタイヤの負担も凄まじく、タイヤメーカーエンジニア泣かせのクルマとして君臨してきた。そのため911の認証タイヤに指定されることは、タイヤメーカーにとって名誉に近いものでもあった。
911がターボによるドーピングで、爆発的な加速力と高速性能を得るには、それを支えられるタイヤが必要不可欠だったのだ。ここからタイヤの低扁平化は進んでいくことになり、それとともにホイール径も拡大されていくのである。
タイヤホイールの大径化はボディの大型化も影響しているが、理由はそれだけではない。ボディサイズに制限があり大型化していない軽自動車でも、ホイールの大径化は進んでいる。高速走行時の安定性を向上させたり、ブレーキ性能を高めたりするためにも大径化は貢献しているからだ。
また、ドイツの大型セダンなどを見れば分かるように、高級車や高性能車が19インチ、20インチといった大径ホイールを採用しているのは、高性能を伝えるイメージを利用しているのも確かだ。大径ホイールは決して乗り心地を向上させるアイテムではないが、最新の高級セダンらしいイメージの演出には欠かせない要素なのである。
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