なぜクルマのホイールは大径化していくのか インチアップのメリットとホイールのミライ:高根英幸 「クルマのミライ」(5/5 ページ)
振り返ればこれまでの30年間、全体的にクルマのホイール径はサイズアップされる傾向にあった。そのきっかけとなったのは、低扁平率なタイヤの登場だった。なぜタイヤは低扁平化し、ホイールは大径化するのだろうか?
鋳造、鋳造以外の選択肢
ちなみに最近は鋳造ホイールでもインナーリム(ディスク面よりも内側にあるリム部分)の成形を圧延によって行なっているメーカーも増えてきている。これにより鍛造ホイールに近いリム強度を実現できることから、鋳造でも軽くて強いホイールが登場しているのである。
また最近はアルミ合金以外の素材をホイールに採用する例も出てきた。代表的なものはCFRP(炭素繊維強化プラスチック)をリム素材に使い、ディスク面をアルミ合金製としたものだ。
写真右はリムをCFRP、ディスク面をアルミ合金製とした高性能ホイールの例。BMWがMモデル用にオプション設定した。左はCFRTPの板材を使い金型で成形したCFRTP製ホイールの試作品。20分程度で生産可能で、アルミホイールの半分程度の重量を実現できる
軽量高剛性で視覚的にも高性能をアピールできるため、高性能車のオプションやアフターマーケットでは注目のアイテムとなっている。アルミホイールと比べると高価なだけでなくリサイクル性が落ちるが、一部の高性能モデル向けとしては、採用は広がっていくのかもしれない。
一方でCFRTP(炭素繊維強化熱可塑性プラスチック)を用いることで、短時間にホイール全体を成形し軽量で量産性にも優れたホイールも開発が進められている。ホイールが樹脂化すれば、剛性を調整しサスペンションの一部として機能させることも可能になってくる。
電動化による重量増大を抑える手段として樹脂製大径ホイールが実用化される可能性も高い。インホイールモーターやエアレスタイヤなどと組み合わせられるなど、ホイールの役割はこれから変わっていくことになりそうだ。
筆者プロフィール:高根英幸
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmediaビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。近著に「ロードバイクの素材と構造の進化(グランプリ出版刊)、「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。企業向けやシニア向けのドライバー研修事業を行う「ショーファーデプト」でチーフインストラクターも務める。
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