なぜクルマのホイールは大径化していくのか インチアップのメリットとホイールのミライ:高根英幸 「クルマのミライ」(4/5 ページ)
振り返ればこれまでの30年間、全体的にクルマのホイール径はサイズアップされる傾向にあった。そのきっかけとなったのは、低扁平率なタイヤの登場だった。なぜタイヤは低扁平化し、ホイールは大径化するのだろうか?
ホイールの違いでクルマの乗り味も変わってくる
サスペンションとタイヤだけが、走行中の衝撃を吸収しているわけではない。アルミホイールはその素材の特性上、靭性(じんせい、バネのように外力を受けて変形しても戻る、粘り強さ)こそあまり望めないが、走行中の衝撃を受け止めその一部を吸収している。したがって、ホイールは強固であればいい、というのではなく重量と剛性とのバランスが大事だ。
日本のアルミホイールの安全基準として、JWLとVIAという規格があることはご存じだろうか。どちらも国が定めたもので、一定の強度試験をクリアしたものに刻印が与えられ、車検をパスすることができる。VIAはアフターマーケットのアルミホイール用に設定され第三者機関が検査するもので、社内試験で合格すれば刻印が入れられるJWLよりもワンランク品質が高いと見ることもできる。
自動車メーカーの純正ホイールはJWLの刻印ながら、実際にはより厳格な社内基準を設け、高い品質と強度を確保している。それゆえに重量は重めになるのだ。
ホイールの重量において重要なのは、デザインや素材よりも製法だろう。アルミホイールの場合、一般的な方法としては金型鋳造(ちゅうぞう)が用いられている。これはアルミ合金を溶解させ、金型に流し込んで製造するもので、大量生産には非常に適した製法でありほとんどの量産車用ホイールに用いられている。
それに対し、同じアルミ合金を使いながら、より軽く高剛性なホイールを作り出せるのが鍛造(たんぞう)だ。これは熱した金型にアルミ合金の塊を何千トンもの圧力を発生させる油圧プレスで押し潰して成形し、リムは圧延成形して表面を切削などして仕上げる。
ホイールを鍛造で作ると、どうして大幅に剛性を高めることができるのか。それは巷(ちまた)でいわれるような「鋳造ホイールには鬆(す、構造内部に発生する空洞)などが発生してしまう分、断面形状に余裕を持たせている」なんてことではなく、内部の結晶構造によるところが大きい。
鋳造は溶解したアルミ合金を冷却させて凝固させるため、アルミ合金の結晶の大きさにはどうしてもバラつきが発生する。例えるなら、白砂糖とグラニュー糖と氷砂糖が混在した状態だ。
それに対して鍛造は高い圧力で潰すため結晶構造が均一になる。つまり白砂糖だけで構成された状態となり、結晶同士の結び付きが密で強固なのである。さらに金型に合わせて変形することによって鍛流線と呼ばれる繊維状の組織が生まれ、より強靭(きょうじん)な製品になるのだ。
難点は、その設備の壮大さと工程の関係上、鋳造ほどの量産性は見込めないことである。したがって鍛造ホイールはどうしても鋳造より高価になる。しかしその効果と内容からすれば納得せざるを得ないのが鍛造ホイールの魅力といえるだろう。
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