CFOを目指したい人の登竜門? 「FP&A」とは、どんな仕事なのか:“会計の専門家”にとどまらない(1/2 ページ)
ファイナンス部門というと経理や財務の印象を強く持つかもしれないが、実はもう一つの大きな柱が「FP&A」。海外では「CFOへの登竜門」になっている企業も多いというが、どのような職なのか。
連載:経営を動かすファイナンス
財務や経理のみに限らない、ファイナンス人材の新たなキャリア候補FP&Aについて、FP&Aスペシャリストの鷲巣大輔氏が寄稿。第1回は、「FP&Aとは何か?」を解説します。
FP&A(Financial Planning & Analysis)という職種をご存知ですか? ヨーロッパの企業ではFinancial Controllerなど他の呼び名もあり、もともと外資系企業ではよく見られる職種です。近年は国内でも、グローバル企業や、投資ファンドがスポンサーとなる企業を中心に、募集を見かけるようになりました。
ファイナンス部門というと経理や財務の印象を強く持つ人も多いと思いますが、実はもう一つの大きな柱がFP&Aです。CFO(Chief Financial Officer:最高財務責任者)になるための登竜門としてのポジションとして据えている企業も多く存在します。
さて、このFP&Aとはいったいどのような職種なのでしょうか? Financial Planning(財務計画)、Analysis(分析)の名前が示す通り、事業戦略を予算といった財務計画に落とし込み、実際のオペレーションの結果と照らし合わせて、企業の機会やリスクを明らかにし、経営チームの意思決定に影響を与える「良質な題材」を提供することがミッションです。言ってみれば、CEOや事業本部長といった経営判断を下すメンバーの「ビジネスパートナー」として、組織に貢献することが求められるポジションです。
日系企業では経営企画や事業企画といったポジションがこの役割を担っているケースも多いかと思いますが、FP&Aはファイナンス部門の一部であり、CFOの直下にあるポジションだという点が経営企画と異なります。
資金提供者である株主・債権者といったステークホルダーの代弁者的役割を担うファイナンス部門の一部として、また会計という専門性を持ったプロフェッショナルとして、経営トップが気付かない点や熟慮する際のインプットを与えるが求めらことれます。言われたことを粛々とするだけの「経営者にとっての便利屋さん」で終わらずに、あくまでも経営を下支えするスタッフ部門でありながらも、自立し、経営者と対等に議論ができるだけの力量が求められるポジションであるとも言えます。
FP&Aの役割 経営トップと同じ視座に立ち、インサイトを提供する
私自身、大学を卒業してビジネスの世界に身を投じてからの20数年、一貫してファイナンス領域で仕事をしてきており、FP&Aを専門としています。
自分自身の経験や他社事例などをお聞きする限り、FP&Aが担当する具体的な職務とは、一般的には下記のようなものになるかと思います。
- 予算策定および予算管理
- 予算と実績のギャップ分析
- 財務予測(売上、利益、キャッシュフローなど)のアップデート
- 投資判断のための財務分析
- これらを判断材料とする各種経営会議の準備およびファシリテーション
もちろんこれらはタスクであって、その根底にある使命・職責というものは「経営判断を行うCEOおよび事業本部長のビジネスパートナーとして、判断に影響を与える良質のインプットを提供する」ことにあります。
数値を取りまとめたり、資料を整えたりという部分にどうしても時間と労力がかかり、その点に目が行きがちなのですが、最も大切なのはその取りまとめた数値や資料から、経営に対してのインサイト(示唆)を提供することにあります。
その計画を数値に落とし込んだときに、どのあたりに成否を分けるカギがありそうか、その実現に向けての経営資源は十分確保されているか、仮に環境が変化した時にどのような財務指標になりそうなのか、それがリスクだった場合にはどのような対策を考えておくべきなのか……こうした判断材料を随時提示することによって、単なるイエスマンではなく、経営トップと対等的な立場で建設的な議論をすることが求められます。
そのためには、経営トップと同じ視座に立ち、視野を広げておく必要があります。単なる会計の専門家でとどまるのではなく、自社が展開するビジネスを理解したうえで、各種の打ち手が自社の財務指標にどのような影響を与えるのか、そのメカニズムや影響の大きさを理解することができて、初めて「意味のあるインサイト」を提示できるようになるのだと思います。
そう考えると、自社の事業基盤を安定させるための財務・経理の仕事が「守りのファイナンス」であるのに対し、「いかに事業価値を高めるか」「いかに戦略の実効性を高めるか」について直接的に関与するFP&Aは「攻めのファイナンス」といえるかもしれません。このあたりのマインドセットを変化させていく事もFP&Aを担当するうえで重要な要素になってくるでしょう。
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