今こそ休む! 日本に“長期間休める企業”が必要なワケ:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/3 ページ)
「働かせ方」の二極化が拡大している。ブラック企業の話も後を絶たないが、経営改革が進む企業では、休暇制度の充実に着手することが多い。例えばJR東日本は「全社員を対象にした最長2年間の新休職制度」を4月に設ける方針だ。日本の生産性を上げるため、筆者はこのような長期休暇が取れる企業が増えるべきだと考えている。その理由は──。
1990年代から世界中の先進国ではワークライフバランスが叫ばれてるのに、日本で長時間労働が一向になくならないのも、「人が幸せになるための働き方の訓練」になるギャップイヤーやサバティカル休暇がないことが、大きな理由なのかもしれません。
いずれにせよ、じわじわと亀さん並みの足どりではありますが、“人生のシナリオ”作りをする時間を制度化する企業が増えているのは、実に喜ばしいことですし、もっともっと増えてほしいです。
これまでの成功方程式が全く役に立つない時代だからこそ、人が持つ可能性に投資できる企業が生き残っていくに違いありません。
そして、「働き方」を変えられない人は、まずは疲れの借金を精算し、心を元気にしてください。「会社員」は、想像以上に疲れているのですから。
上下関係や属性を基本とした人間関係、結果を常に出さなければならない、日々の仕事が評価される、誰かに見られている、といった精神な緊張や、心理的な負担は、「食べて寝れば回復する」というほど、単純ではありません。
本来、心的な疲れを癒すには、適度な運動、精神的ゆとり、遊び、お喋り、笑い、など、心的疲労を癒す“資源”が必要不可欠です。しかしながら、効率化ばかりが求められる現代社会では、そういった資源まで貧困化してしまっています。
その結果、頭痛、肩こり、イライラ、やる気が出ない、眠れない、ケアレスミスなどで、会社に大きな損失を出し、生産性は低下するばかりです。疲れを溜めていくことは、最悪の場合、うつや突然死につながる極めて深刻な状態だという知識も共有されていません。
疲労は、いわば“借金”と同じです。放っておけば、どんどんと利子がついて、にっちもさっちもいかなくなる。「私」は自分で認識している以上に疲れていて、疲れの借金だらけになっている……というリアルを、正面から受け止めることから、まずは始めてみてください。
そして、人生とは選択であり、進化しないことは退化すること。どんな厳しい状況でも、人にはそれを乗り越えるパワーが秘められていることも知ってほしいです。
「私」に内在するパワーを信じ、ストレスからの“傘”を探し、見つけ、具体的に動く。決して一人きりで頑張らずに、“傘”を借りる勇気を持つ。真の自立とは依存の先に存在するのですから、自分が動かない限り、人生は好転しません。
そうすれば必ず、「光」が見える。だって、人は幸せになるために生まれ、幸せになるために働きているのですから。
人間は「仕事」「家庭」「健康」の3つの幸せのボールを持っています。3つのボールをジャグリングのように、どのボールも落とすことなく、回し続けられるような働き方、働かせ方をすれば、「働くこと」が人生を豊かにする最良の手段になる。
そんな社会に、日本もなってほしいと心から願います。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)がある。
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