エルサルバドルがビットコインを法定通貨にして大損? IMFも懸念を表明した理由:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/3 ページ)
今がバブルにあるかといわれるかといわれれば、そうでないのかもしれない。しかし、エルサルバドルが国家が発行権を持たないビットコインを法定通貨としたことは、上記のバブル列伝と肩を並べる“無謀なこと”と、将来評価される可能性がある。
エルサルバドルは本当にビットコインで大損した?
気になるのはビットコイン価格の暴落によって、エルサルバドルの経済が混乱しないかということだろう。ビットコインの価格は21年11月に6万9000ドルの史上最高値をつけてから、一時は半額以下の3万2900ドルまで値を下げ続けた。
当のナジブ・ブケレ大統領は、急落した1月23日に、自身のプロフィール画像にマクドナルドのロゴをコラージュするという”遊び心”を見せた。海外の暗号資産ファンの間では、「暗号資産で大損した場合、マクドナルドのアルバイトで日銭を稼ぐ」という趣旨のスラングが流行しており、ブケレ大統領もそれに乗じた形だ。
ビットコインが法定通貨となった以上、その価格が暴落したことは国民の資産が毀損(きそん)したともいえる。日本でいえば年金の運用で莫大な赤字が出たようなイメージだろうが、そんな時に日本の首相がこのような“遊び心”を見せれば内閣総辞職どころでは済まないかもしれない。
しかし、この振る舞いがそれほど炎上しないのは、ブケレ大統領に対する国民の盤石な支持があるからだ。ブケレ氏が大統領に就任したのは19年6月、彼が37歳のときだ。前のキャリアがサンサルバドル市長として高い評価を受けていたこともあり、国民の信頼は厚い。
これまでの支持率は高い時で90%を超え、低くても80%を下回ることはなかった。ブケレ政権は特に治安改善で目覚しい実績を上げており、「人口10万人あたりの殺人事件発生数」が、就任前の50件から現在の19件と大幅に減少している点も高く評価されている。
また、エルサルバドルは見た目ほど大きな損失を出していないこともポイントだ。
エルサルバドルは、セキュリティの観点からどのアドレスにいくらビットコインを預けているか明らかにしていない。しかし、ブケレ大統領のTwitterでは度々ビットコインの取引について言及する投稿がなされている。それによれば、少なくともエルサルバドル政府は1800ビットコイン以上を購入しており、平均的な取得単価はおよそ4万4000ドル前後だ。ここから、ビットコインの購入のためにエルサルバドルが注ぎ込んだお金は8000万ドル程度と推定される。
したがって、現在のビットコインのレートである36000ドルを当てはめるとエルサルバドル政府の含み損は1500万ドル程度となる。しかし、これは同国のGDPと比較すると1%以下の水準で、国家規模から考えると大損とまではいえない。仮にエルサルバドルの保有するビットコインが今後無価値となったとしても、GDP対比では3%ほどの損失にとどまる。また、米ドルも法定通貨として現在も流通している。そのため、同国に深刻な被害が発生するとまでは言い難い。
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