金の買い取り業からマッサージ器で成功、型破りなドクターエアの経営とは?:家電メーカー進化論(6/7 ページ)
近年、マッサージ家電が人気だ。マッサージガンや椅子やソファーに置くとマッサージチェアになるシートなど、使ったことがある人も多いだろう。これら新しいタイプのマッサージ機器をいち早く手掛け、市場を牽引しているのがドクターエアだ。同社の誕生の経緯や、型破りな経営、今後の展開について井上馨社長に聞いた。
高い営業力とブランド・マネジメントが強み
金や貴金属の買い取りを行う会社から、マッサージとフィットネス製品のブランド「ドクターエア」を立ち上げた井上氏。ドリームファクトリーの最新の売上高は132億9419万円(2021年5月期)で、そのうち80億円はドクターエアによるものだという。
これまでの成功について井上氏は「運が良かっただけ。金もマッサージ器も偶然が重なっただけで、元からやろうと思っていたわけではありません」と笑う。
しかし運を掴むために、妥協しなかった部分も多い。例えば製品開発だ。マッサージ機器では、中国の工場での開発、製造の工程で安易な妥協は許さなかった。そのため発売に至らなかった製品も少なくないそうだ。
「マッサージ器もスポーツ機器も、一番のポイントは、今までにないようなデザインで、パッと見てかっこいいことです。とにかくかっこいいを大事にして、社内のデザイナー、時には社外のデザイナーとやり合いながら一緒に作ってきました。
しかし中国の工場とのやり取りはなかなか難しくて、確か最初に作った製品は市場には出さず、2、3世代目になってようやく洗練され、やっと市場に出したと思います」(井上氏)
そして、自信が持てる製品を生み出せたら、高い営業力を生かして販路を切り開いていく。まだ世の中にない製品や、普及していない製品を手掛けることが多いだけに、この営業力の高さも、ドクターエアの強さの理由になっている。
そしてもう1つ大切にしているのが、ブランド・マネジメントだ。現在、ドクターエアは全国の直営店を始め、約4000店舗で販売されている。しかし、いたずらに取扱店を増やしてはおらず、ブランドイメージを損なわないようにお店はしっかり選んでいる。
日本全国に20店舗を展開するドクターエア直営店。ホームヘルス機器販売員の資格を持ったスタッフが在籍しており、実際に製品を手に取ったり、試したり、体感できる。直営店限定製品や限定カラーなども取り揃えている
「ありがたいことに日々さまざまなお店から取り扱いたいという声はいただくのですが、これまでドクターエアを愛用くださっているお客様のためにも、ブランドの価値を下げるようなお店での取り扱いはお断りしています。ブランド価値を損ねると感じたら、大きいお店でも取引はやめる。それぐらいのプライドを持ってやっています」(井上氏)
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