AIオンデマンド乗合タクシーの成功の秘訣 全国30地域に展開する「チョイソコ」の事例から:前編(2/6 ページ)
全国30地域で運行しているAIオンデマンド乗合タクシー「チョイソコ」。スポンサーとなった地域の医療機関や薬局、スーパーなどが停留所を設ける仕組みで、収益率を向上させている。このほかに、大きな特徴が2つあるという。
オンデマンド乗合タクシーの概要
路線バスのように、決まった時刻に決まった路線を運行するのではなく、予約があった場合にのみ運行する乗合交通を「オンデマンド交通」という。そのうち、乗車定員11人未満の車両を用いたものを「オンデマンド乗合タクシー(デマンド型乗合タクシーとも)」と呼ぶ。車両はワゴン型を使用するケースが多いが、セダン型を用いるケースもある。乗合で、かつきめ細かく運行することから、「バスとタクシーの中間」のサービスともいわれる。
具体的な運行方法は、実施主体によって異なる。前日や数時間前に予約を締め切り、ルートをその都度作って運行する「セミデマンド」から、住民からの予約(電話・スマホ)を受けてすぐにルートを決めて運行する「フルデマンド」までさまざまである。運行事業者は、道路運送法第4条あるいは第21条の一般乗合旅客自動車運送事業「区域運行」の許可が必要となる。このためには、市町村や住民代表、交通事業者などで構成する「地域公共交通会議」で協議しなければならない。
オンデマンド乗合タクシーは、2000年代中頃から増え始め、「令和2年版 国土政策白書」によると、全国の自治体の3割を超える555団体が導入している(2018年度時点)。各地方で、路線バスの乗客が減少し、空気だけ運ぶ「空気バス」が問題になっていたことから、自治体が路線バスを廃止して、新たにオンデマンド乗合タクシーを導入したパターンが多い。
しかし、もともと乗客が少ないエリアで運行することから、せっかく導入しても利用が少ない例も多い。また、自治体が補助金削減を目的に導入しても、ドライバーやコールセンターの人件費など、一定の経費は発生する。
近年は、異業種による移動分野への新規参入が相次ぎ、AIを使った乗合タクシーの配車システムが相次いで開発されている。スマートフォンのアプリから予約するものもあるが、乗合タクシーの利用者は高齢者が多いため、アプリを用いた予約にはハードルがある。
チョイソコの概要
株式会社アイシン(以下、アイシン)が開発したAIオンデマンドの乗合タクシーサービス。地域の医療機関や商業施設などがスポンサーとなり、協賛金を払う代わりに、自社の敷地内に停留所を設けて集客を狙う手法が特徴である。アイシンと株式会社スギ薬局が愛知県豊明市に持ち掛け、2018年度から実証実験として運行が始まった。収益性を向上するスキームが注目され、全国約30の地域に広がっている。
豊明市においては、アイシンが実施主体となり、実際の運行はタクシー会社に委託している。2021年3月末時点で56社がスポンサーとなっている他、豊明市も年間約1600万円の負担金を出している(図表1)。
運営方法は地域によって異なるが、豊明市の場合は、平日午前9時から午後4時まで、2台の車両で運行している。運賃は1回200円。会員登録制。利用者が電話やインターネットなどで事前予約すると、配車システムによって、同じ時間帯に、同じ方向に向かう乗客同士の乗り合わせと走行経路が自動計算される仕組み。停留所方式であり、基本的に自宅前からは乗降できない。市内には、スポンサーが設ける停留所の他、一部の住宅地や公共施設、公園等にも停留所がある。
利用対象は、市内に居住する65歳以上の高齢者や障がい者。または、市内の交通不便地域である「仙人塚・間米エリア」と「沓掛エリア」に住む小学生以上の方。導入に当たっては、既存の路線バスやタクシーとの競合を避けるために、▽利用者から希望があっても、路線バスと同じ経路を運送しない、▽車両数は最大3台に制限する、などのルールを決めている。
豊明市では、2020年度まで実証実験を継続し、2021年度から、道路運送法第4条の一般乗合旅客自動車運送事業の許可を得て、正式運行となった。同市における会員数は1858人(2021年1月末時点)で、そのうち約9割が65歳以上である。豊明市以外の導入事例では、チョイソコを活用して弁当の宅配サービスや高齢者の見守りサービスなどを行っている地域もある。
「チョイソコ」は「チョイとソコまでごいっしょに」の合言葉から考えられた。身体能力の衰えによって短距離でも歩くことが難しい高齢者らに、ドアツードアに近い移動サービスを提供することで、気軽にお出かけしてもらい、健康増進につなげることを目的としている。
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