#しまパトで躍進 「しまむらの服」がここにきて“爆売れ”し始めているワケ:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)
しまむらの決算が過去最高を更新した。しまむらはインフルエンサーやネット広告を活用して若者コミュニティをつくりあげ、消費者自身が広告塔として情報を発信してきた。これにより、ブランドイメージの若返りのみならずこの度の好決算を導くことに成功したのだ。
なぜ他社は #しまパト を真似できないのか
その効果は、「広告宣伝費」にはっきりと現れている。直近の決算説明資料によれば、しまむらはコロナ前比の2019年と比較して28.6%も広告宣伝費を圧縮している。もちろん、圧縮の要因にはYouTubeでの動画広告といったネット広告による効率化という側面も大きいが、若者の取り込みという観点ではインフルエンサーを中心とした商品企画の強化と、消費者によるSNSへの自発的拡散も大きな役割を果たしている。
Twitterやインスタグラムで「#しまパト」と検索すると、しまむらでゲットしたお得な商品や、おしゃれな服の購入報告を写真と感想付きでツイートする若年層の消費者が多くみられる。
ここまでであれば、「ただ商品をSNSに載せるだけではないか」と思われる人もいるだろう。しかし、この #しまパト運動はしまむらだからこそできるSNS投稿促進施策であり、例えばユニクロのようなブランドが真似しようとしても無理がある。
その秘密は、しまむらのビジネスモデルにある。
店舗名に「ファッションセンター」という言葉を入れている通り、しまむらは自社で服を製造するのではなく、目利きのバイヤーが各国から服を仕入れ、各店舗に割り当てる「セントラルバイイング」手法をとっている。セントラルバイイングの場合は店舗の客層や販売動向などから、本部が各店舗に割り当てる商品の数量や種類を調整することになる。つまり、店によって品ぞろえが違ったり、同じ商品でも売られている数量が異なるのだ。
この差異が、消費者のSNS投稿を呼び起こしやすくする。このように考えると、#しまパト運動は服というモノそのものではなく、「私はしまむらをパトロールすることで、思いがけずお得な服や、おしゃれな珍しい服をゲットできた」という体験を載せているというべきだろう。
そこから、投稿を見た消費者が「しまむらを探せば他とは違うおしゃれな服がお得に手に入るかもしれない」という印象を抱かせ、店に足を運ばせるという副次的効果も期待できる。インフルエンサーのPRは別として、このような一般消費者の投稿にはしまむらによる金銭的なインセンティブ、つまり広告宣伝費がかからない。その一方で、#しまパトの投稿は自社による広告ではなく客観性のある第三者の投稿であることから、広告効果も高まる。
さらに、投稿を見る消費者(フォロワー)は概ね自身と似た属性となる。そのため、同じ#しまパト報告の中でも、フォローフォロワー関係の中では年代や嗜好の棲み分けができる。そのため、一律で極端な若返り施策と異なり、マイルドで効果的な若返り施策でもあるのだ。
仮にどの店舗でも同じような品ぞろえで服が販売されている場合、そこで購入した服をわざわざSNSに投稿しないだろう。そのため、ユニクロなどの均一な品ぞろえを提供する他社は、#しまパトのような運動を真似できないといえる。
今回挙げた取り組みの他にも、しまむらはEC強化や、PB(プライベートブランド)やJB(ジョイントブランド)とよばれる共同開発のブランド展開で利益率の向上と商品力の強化に経営資源を注いでいる。60年続いてきたブランドであるしまむらにおける“ここにきて爆売れ”の行方に注目だ。
筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士
中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。
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