僧侶という職業が“長生き”のワケ 働き方が激変しても、心身の健康を保つ「5つの習慣」:大愚和尚のビジネス説法(3/3 ページ)
「健康で長生きしたい」とは、年を重ねるごとに誰もが抱く願望です。けれども残念ながら、誰もが健康で長生きできるわけではありません。仕事が「これから」というときに、大病を患ったり、「まだまだ」長く働けると思われていた人が突然亡くなったり……。かと思えば、100歳を超えてなお矍鑠(かくしゃく)としておられる方もある。なぜ、人は“順番に逝く”わけではないのでしょうか。
(5)人間関係:御縁に感謝し、関わりを楽しむ
カナダ人の心理学者であるスーザン・ピンカー博士は、100歳を超える人の比率が北アメリカの10倍といわれるイタリアのサルディーニャ島に渡って、長寿の秘訣を探りました。そこで分かったことは、良好な人間関係が健康長寿に関係しているということです。
サルディーニャ島の村では、家が密集して建ち並び、そこに大家族が集まって暮らしており、家族以外にも近所の人や店主との交流、教会での集まりなど、毎日死ぬまで人と人が顔を合わせて生きる環境が残されていました。
産業革命以降、疫病が流行ったことなどをきっかけに、人々は人との関わりを避け、孤独に生きるようになりました。スーザンは、このことが人間の精神だけでなく、体の免疫力を低下させ、健康長寿をはばんでいると警鐘を鳴らしています。
僧侶はお寺に住み込み、毎日のように檀家や業者など、人と触れ合う職業です。しかも60を過ぎても、70を過ぎても、本人が意図的に退かない限りは引退がありません。仏教では、縁起(えんぎ)といってあらゆるものがそれ単体で存在しているわけではなく、関係によって成り立っていることを教えています。
人は人の間でしか生きていけません。あらゆる人との出会いを大切にする「我逢人(がほうじん)」という禅語があります。「逢う(あう)」という字は、上っ面の出会いではない、もっと親しみ深い「特別な出会い」を意味しています。出会いに感謝し、どんな人との関わりも喜びに変えてしまう。長生きをした名僧はきっと、そのような人なのでしょう。
老いや病は、生き方を見つめ直すチャンス
僧侶が長生きである5つの理由。いかがでしたでしょうか。決して僧侶自身が長生きしようとして、狙ってそのような生活習慣や心構えを持ってきたわけではありません。
「足るを知って、欲や怒りを起こさないように」
「自分の心が清らかでありますように」
「生きとしいけるものが幸福でありますように」
そう願って生きる僧侶のライフスタイルが、自然と健康長寿につながっていたのでしょう。「私は僧侶ではありませんから、なかなかそのように生きることはできません」。そうおっしゃる方もあると思います。けれども、一つ覚えておいていただきたいことがあります。それは、怪我や病気は、ピンチではなくチャンスだということです。
私たちは、体が健康であるとき、自分の体や生活習慣を見つめ直すことはしません。私たちは、心が健康であるとき、自分の心や思考のクセを見つめ直すことはしません。老いたり、心身を病んだりしてはじめて、自分の内側に意識を向けるのです。
全ての病は、広い意味で生活習慣病であり、私たちの心身が発するSOSです。働き方が大きく変わり、生活が一変した。そのような状況の方も多いと思います。中には、体調を崩した、心を病んだ、それでも毎日働かなければならないという方もいるかもしれません。ならば今ここで、心身が発するSOSに向き合ってみませんか。日々の小さな習慣の積み重ね。それが病にもつながるし、健康長寿にもつながります。明日を健康に過ごし、天命を全うできるかどうかは、今日のあなた次第なのではないでしょうか。
皆さまが今日も、健康無事でありますように。皆さまが今日も、幸せでありますように。私はいつでも、そう願っています。
著者:大愚元勝(たいぐ げんしょう)
佛心宗大叢山福厳寺住職。株式会社慈光マネジメント代表取締役。慈光グループ会長。僧名「大愚」は、大バカ者=何にもとらわれない自由な境地に達した者の意。駒澤大学、曹洞宗大本山総持寺を経て、愛知学院大学大学院にて文学修士を取得。 僧侶、事業家、作家・講演家、セラピスト、空手家と5つの顔を持ち、「僧にあらず俗にあらず」を体現する異色の僧侶。
HPにて「お悩み相談」を受け付けているほか、YouTubeチャンネル「大愚和尚の一問一答」で国内外から寄せられた相談にも対応する。著書『苦しみの手放し方』(ダイヤモンド社)、『最後にあなたを救う禅語』(扶桑社)、『人生が確実に変わる 大愚和尚の答え』(飛鳥新社)など。
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