僧侶という職業が“長生き”のワケ 働き方が激変しても、心身の健康を保つ「5つの習慣」:大愚和尚のビジネス説法(2/3 ページ)
「健康で長生きしたい」とは、年を重ねるごとに誰もが抱く願望です。けれども残念ながら、誰もが健康で長生きできるわけではありません。仕事が「これから」というときに、大病を患ったり、「まだまだ」長く働けると思われていた人が突然亡くなったり……。かと思えば、100歳を超えてなお矍鑠(かくしゃく)としておられる方もある。なぜ、人は“順番に逝く”わけではないのでしょうか。
・食べ過ぎなどに注意をして、摂生を心がけたこと
・瞑想の時間をとり、精神的なゆとりを持つこと
確かにそういった理由があるでしょう。けれども、森教授の調査から40年。世界中で進められてきた調査によって、「健康長寿」のさらなる秘訣(ひけつ)が明らかになりつつあります。それらの研究結果と、禅寺での生活を照らし合わせながら僧侶が長生きしがちな理由を5つ、挙げてみたいと思います。
(1)食事:足るを知り、節度を持って食べる
WNPC(Wisconsin National Primate Reserch Center)の研究グループが行った、アカゲザルを用いたカロリー制限の研究があります。
彼らはまず、76匹の猿を通常の餌を与えるグループと、カロリーを70%に制限した餌を与えるグループの2つに分けました。そして長期に渡って飼育したところ、通常食を与え続けたグループの猿は、カロリー制限を行ったものに比べて2.9倍疾病のリスクが上昇し、死亡リスクが約3倍上昇したといいます。カロリー制限には、老化を遅らせ寿命を延長する効果があることが分かったのです。
禅寺では、「知足(足るを知る)」を大切にします。おいしいからといってむさぼらず、自分に必要な量をわきまえて、節度をもって食事をします。また、旬の野菜を中心とした料理を食べるため、自然とカロリーの抑えられた食事を食べることになります。
(2)運動:毎日の運動量が多い
デューク大学の教授で人類学者のハーマン・ポンツアー博士は、アフリカのタンザニアで今も狩猟採集生活を営むハヅァ族の人の運動習慣を観察しました。ハヅァ族の男たちは朝早くから狩りに繰り出し、女性は朝からベリー類や木の実を摘んだり、タロイモを掘ったりして生活しています。
彼らの毎日の運動量は、ランニングなど中〜高強度の活動を2時間、ウォーキングなどの低強度の活動を数時間行うことに匹敵するといいます。そして、ハヅァ族の人々には先進国でまん延している心臓病、不安症、うつ病など、心身の疾患が全く見られませんでした。 また、同年代のアメリカ人と比べてハヅァ族のほうが血圧、コレステロールなどの数値が低く、心臓発作を招く血液の炎症反応も低い――つまり、心臓が健康であることが分かったのです。
ハヅァ族の人ほどの運動量はないにせよ、僧侶の運動量は一般の人よりは自然と増えます。なぜならお寺は、一般家庭や職場のオフィスと比べて、建物も境内も広いからです。さらに僧侶は、作務(さむ)と呼ばれる清掃作業が日課です。掃き掃除、拭き掃除、草取り、草刈りなど、一日境内を歩き回るだけでも結構な運動量になります。
(3)睡眠:規則正しい生活習慣と寝る環境
国立がん研究センターが行った、睡眠時間と死亡リスクとの関連を調べた調査があります。10万人の男女を対象に、20年以上に渡って追跡調査して分かった平均睡眠時間は約7時間。そして、10時間以上の長い睡眠も、5時間以下の短い睡眠も、ともに死亡リスクを高めることが分かりました。
また深い睡眠のためには、昼は太陽光を浴びて、夜は真っ暗にして寝ることが理想です。日光は体内時計を調整してくれますし、暗い部屋は脳に深い休息を与えてくれます。コーネル大学の研究チームが、皮膚にも網膜と同じように光を感知して脳や臓器に通達する機能があることを突き止めました。ごくわずかな光でも、体温やメラトニン(覚醒と睡眠を切り替えて、自然な眠りを誘う作用を持つホルモン)の分泌に影響を与え、睡眠が乱れることが分かりました。
また、豆電球のような小さな光であっても、睡眠中に電気をつけたままで寝ることによって、子供の近視が進んで大人になってから視覚障害を招くおそれがあることも分かっています。一見、便利で安全、人に優しく思える夜の間接照明。「夜中にトイレに起きたとき、段差でつまずいて転ばないように」──そんな配慮が、睡眠を邪魔し慢性的な疲労感をもたらしているかもしれません。
お寺の朝は早いです。そして、朝早いからには自ずと夜も早く寝ることになります。私が住職を務める福厳寺(ふくごんじ)でも、修行僧たちは夜10時に寝て、朝5時に起きます。その間にきちんと寝ているならば、睡眠時間はぴったり7時間です。そして、幸いなことに、お寺の夜は部屋の外も中も真っ暗です。
(4)ストレス:心を見つめ、整える習慣
ハーバード大学による3万人の成人を対象とした動向調査によると、経済的な困窮や愛する人の死など、心理的に大きなストレスを受けた翌年に、死亡率が43%高まりました。しかし興味深いことに、この結果は「ストレスは健康に悪い」と信じていた人にのみ起こった結果だったのです。「ストレスは有害ではない、むしろ体がチャンスに向けての準備をしている」と信じている人の死亡率はゼロでした。
ストレスを感じると、私たちの体にはストレス反応が起こります。ストレス反応は、ストレスホルモンの分泌によって引き起こされる反応です。例えば私たちの心が、イライラ、不安、焦り、緊張など、ネガティブな感情を受けると、ストレスホルモンの一種であるアドレナリンが過剰に分泌されます。アドレナリンは腎臓の側にある副腎(ふくじん)という器官から分泌されるホルモンの一つで、交感神経を刺激します。すると心臓がドキドキしたり、手足に汗をかいたり、瞳孔が開いたりします。
これらの反応は、私たちの祖先がサバンナの中で敵に出会ったとき、戦うか逃げるかという有事に備えるためのものです。これらの反応を、ネガティブに捉えるかポジティブに捉えるか。その違いによって、死亡率までが変わってしまうことが分かったのです。
「生老病死」。お釈迦さまは、人生とは苦の連続だとおっしゃいました。ストレスの連続が人生のデフォルトだというのです。ストレスを全く受けずに生きることはできません。ストレスマネジメントはできないのです。できるのは、セルフマネジメントのみ。自己の心を自分で整えるということです。
「痛いときは痛い。悲しいときは悲しい」と開き直って、そこにいちいち囚われない。心を見つめ、苦しまない術が仏教です。
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