決算書から粉飾は見抜けるのか? 上場廃止グレイステクノロジーの「不可解な動き」:矢部謙介「決算書を読み解く」(3/3 ページ)
粉飾決算が発覚し、上場廃止が決まったグレイステクノロジー。元会長などが粉飾決算を主導していたことが明らかになっているが、開示された決算書データから兆候を見抜くことは可能だったのか。
図表4は、グレイステクノロジーの売上高、従業員数、従業員1人当たり売上高の推移をまとめたものだ。これによれば、従業員1人当たり売上高が15年3月期には約17百万円であったのに対し、20年3月期には約49百万円と、3倍弱にまで伸びていることが分かる。要は、従業員数はほとんど増えていないのに、売上高が3倍以上に増加しているため、このような動きになっているのである。
通常のビジネスであれば、売上高の成長に伴い、従業員も増加する。従って、グレイステクノロジーに見られるような従業員1人当たり売上高の増加が実現されるためには、生産性を劇的に向上させる技術革新やビジネスモデルの変化が必要なはずだ。
しかし、17年3月期の有価証券報告書では、売上高増加の主な要因として「重点顧客へ積極的な営業活動を実施し、大口顧客獲得に成功した結果」としか記載されていない。また、18年3月期〜20年3月期の有価証券報告書においても全く同じ記述が繰り返されている。こうした点を考慮すると、グレイステクノロジーの売上高の成長は適正なものであるとは考えにくく、売り上げが実在するかどうかが疑わしい状況だと推測される。
先に述べた売上債権回転期間の長期化と、従業員1人当たり売上高の不自然な伸びを考え合わせれば、決算の数字に対して「何かがおかしい」と気付くことは可能ではないだろうか。
決算書から粉飾決算を見抜くためのポイントとは?
特別調査委員会の調査報告書によれば、グレイステクノロジーの売上高と利益を水増しする粉飾の主な手口は、「売り上げの前倒し計上」と「架空売上の計上」の2つであった。
一般に、こうした手口による単純な粉飾の場合、売上代金の未入金や入金の遅れが原因となり、営業CFの慢性的なマイナスや売上債権回転期間などの長期化が見られるので、粉飾の兆候を見抜くことが可能となる。
しかし、グレイステクノロジーの場合には、先に述べたように、役員のストックオプション行使によって得られた私的資金を取引先からの売上代金に見せかけて偽装入金していた。そのため、売上債権回転期間の推移には怪しい兆候が見られるものの、粉飾を見破るのを難しくさせていた事例であるといえる。
一方、従業員1人当たり売上高の推移からは、グレイステクノロジーの売上高の成長が不自然である実態が浮かび上がってきた。実は、このような従業員1人当たり売上高の不自然な動きは、「架空循環取引」と呼ばれる粉飾を行っている企業でも見られることがある。
以上のように、粉飾決算の兆候を見抜くためには、P/Lだけを見るのではなく、CFや回転期間などの分析に加え、実際のビジネスを想定しながら、その会社の売上高や利益の伸びが適正なものであるかどうかという視点を組み合わせながら検討することが必要である。
著者紹介:矢部謙介(やべ・けんすけ)
中京大学国際学部・同大学院経営学研究科教授。ローランド・ベルガー勤務などを経て現職。マックスバリュ東海社外取締役も務める。Twitter(@ybknsk)にて、決算書が読めるようになる参加型コンテンツ「会計思考力入門ゼミ」を配信中。著書に『決算書の比較図鑑』『武器としての会計思考力』『武器としての会計ファイナンス』(以上、日本実業出版社)などがある。
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