決算書から粉飾は見抜けるのか? 上場廃止グレイステクノロジーの「不可解な動き」:矢部謙介「決算書を読み解く」(2/3 ページ)
粉飾決算が発覚し、上場廃止が決まったグレイステクノロジー。元会長などが粉飾決算を主導していたことが明らかになっているが、開示された決算書データから兆候を見抜くことは可能だったのか。
多くの粉飾決算の事例では架空の売上高が計上されているが、このような架空売上高の計上によってP/L上の売上高や利益をお化粧できたとしても、その取引からキャッシュは生み出されない。そのため、粉飾決算を行っている企業では、P/L上の利益が黒字になっていても、本業における現金収支を表す「営業活動によるキャッシュ・フロー」(営業CF)はマイナスが慢性的に続いている、というケースがよく見られるのである。
しかも、監査法人は会計監査を行うにあたり、必ず金融機関に預金残高を直接確認し、正確なデータを入手している。従って、現預金残高を改ざんするような粉飾を行ったとしても、すぐに監査法人に発見されてしまう。そのため、一般的に「損益に比べてキャッシュ・フロー(CF)は粉飾しにくい」といわれている。
下図(図表2)は、グレイステクノロジーのCFの推移をまとめたものだ(21年3月期のみ連結決算の数値)。
これによると、15年3月期から21年3月期決算において、グレイステクノロジーの営業CFはプラスで推移している。これを額面通り受け取れば、グレイステクノロジーは本業においてキャッシュを生み出しているということになる。
実はグレイステクノロジーでは、役員に付与されたストックオプション(自社株を一定の価格で取得する権利)を行使して取得した株式を市場で売却し、それで得た私的な資金を、取引先から入金された売上代金に見せかけて偽装入金するという手口の粉飾が行われていた。営業CFがプラスになるような偽装が行われていたわけである。そのため、グレイステクノロジーのCFのデータからは、粉飾の兆候を読み取ることが難しくなっている。
売上債権回転期間の長期化が意味すること
粉飾決算を見抜く上で有用な手法として、回転期間指標を用いた分析がある。回転期間指標とは、貸借対照表(B/S)に計上された受取手形や売掛金(売上債権)、在庫(棚卸資産)、支払手形や買掛金(仕入債務)が売上高の何日分に相当するのかを見る指標だ。言い換えれば、売上債権回転期間は売上債権が現金として回収されるまでの期間、棚卸資産回転期間は在庫を仕入れてから販売するまでの期間、仕入債務回転期間は在庫を仕入れてから仕入れ代金を支払うまでの期間の目安となる。
架空売上の計上や売上計上の前倒しといった粉飾が行われた場合、売上代金の未入金や入金の遅れなどが発生するために、売上債権回転期間が不自然に長期化するといった形で粉飾の兆候が表れることがある。そのため、回転期間分析は粉飾を見抜く上で強力なツールになる。
図表3によると、グレイステクノロジーの売上債権回転期間は、15年3月期には約68日であったのに対し、20年3月期には約161日へと長期化している。サービス業における売上債権回転期間は一般的に60〜80日程度であることから、グレイステクノロジーの20年3月期の売上債権回転期間は異常に長くなっているといえる。後ほど述べるように、グレイステクノロジーでは売り上げの前倒し計上や架空売上の計上が行われていた。そのため売上入金の遅れが発生し、売上債権回転期間が長期化している。ここには、粉飾の兆候が表れていたと見ることができる。
しかしながら、21年3月期の売上債権回転期間は約36日にまで短縮している。これは、先に述べた売上代金の偽装入金が行われたことによる。そのため、何らかの理由で売上代金の入金が遅れていたものの、21年3月期にはその入金が行われたとの解釈も可能である。従って、回転期間分析の結果に怪しい兆候は見受けられるものの、21年3月期時点において過去に粉飾決算が行われていたことを断定することは難しいだろう。
従業員1人当たり売上高の不可解な動き
ところが、少し違う角度から決算数値を眺めてみると、グレイステクノロジーの業績における不可解な動きが浮かび上がってくる。
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