岸田政権の「新しい資本主義」、最大の被害者が「一般国民」になるこれだけの理由:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(3/3 ページ)
岸田ショック(Kishida Shock)という言葉が世界中で広がりを見せつつある。2021年には、世界的メディアが相次いで「Kishida Shock」を見出しとしたニュースを配信した。そのような「株主イジメ」による弊害は、回り回って一般庶民に返ってくる可能性が高く、決して他人事ではない。
年金からは100兆円が国内金融市場に投下されている
最大の懸念は「年金」だろう。現在、およそ200兆円の年金積立金がGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)で運用されている。そのうち国内債券と国内株式が占める割合はおよそ50%、約100兆円もの年金資金が国内の金融市場に投下されている。
GPIFの年金運用については、20年のコロナショックや15年のチャイナショックといった短期的な暴落と一時的な運用益の減少がセンセーショナルに報じられやすい。そのため、今回の岸田ショックも「運用益は減ったが、それでも累計の収益はプラスである」という、通り一辺倒の「ずれた擁護」が発生しやすいと考えられる。
しかし、岸田ショックは、コロナウィルスという自然災害やバブル崩壊のような群集心理と違って、コントロール不能な事象ではない首相自身の発言が発端となっている点が異なる。ということは岸田ショックによるGPIFの運用益減少は、「本来コントロールできていた事象で将来の年金積立金に逸失利益を生じさせ、ひいては年金にダメージを与えた」といって差し支えないのではないか。
岸田氏をあらわす言葉として、“聞く姿勢”という特徴がよく挙げられる。しかし、18日に実施された金融審議会作業部会では、「投機を助長している」として岸田文雄首相が掲げた「四半期開示制度の廃止」に有識者は誰も賛成しなかった。部会で審議される前にしっかりと聞いておけば、誰も賛同しない奇抜な提案は上程されなかっただろう。
今岸田氏に必要なのは、まさに自分が得意と自認する「聞くこと」、市場との対話であろう。
筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士
中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。
Twitterはこちら
関連記事
- 岸田首相も同調した「自社株買い規制」、実現すれば明治時代に逆戻り?
“株もたぬ首相”、岸田文雄氏による金融市場のへ締め付けがとどまるところをしらない。岸田氏は14日の衆議院予算委員会において、企業が実施する自社株買いの質疑応答の場面で「自社株買い規制」を「重要なポイント」としたうえでガイドラインの制定に言及した。 - 日本の金融所得税、実は庶民にとっては世界屈指の重税
岸田文雄総理は、金融所得課税を当面の間は引き上げない方針を述べた。この「当面」という言葉尻をとらえると、じきには増税するということになる。しかし、足元でささやかれている一律25%への増税は、本当に必要なのだろうか。実のところ日本は、我々一般人にとっては金融所得税がとても重い国でもある。増税するにしても制度設計から抜本的に見直す必要がある。 - “ダサい”と評判の4℃、5年連続の業績後退を「コロナのせい」で片付けるべきでない理由
ネックレスやリングをはじめとした宝飾品ブランドとして有名な、「4℃」を手がけるヨンドシーホールディングスの業績が悪化を続けている。 - リーマン前も現れた「二極化相場」が今年も発生? グロース株に忍び寄る利上げの“影”
コロナ禍が招いた「二極化」は業界だけではない。金融緩和の結果「グロース株」が選好され、「バリュー株」は割安段階で放置されるという相場の二極化も招いた。このような動きはリーマンショックの前夜にも現れていた。グロース株の不振がこの先の経済的なショックを示唆する可能性もある。 - 賃金減少、日本の家計に世界的なインフレが直撃、「悪い円安」も追い討ち?
世界的なインフレの影響が、日本の家計に大きな打撃を与える可能性がある。需要によらない供給側の要因で起こる物価上昇は「コストプッシュインフレ」、通称「悪いインフレ」と呼ばれている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.