コストにこだわり残高2兆円 インデックス投信eMAXIS Slimの次の一手:金融ディスラプション(2/3 ページ)
コロナ禍以降の投資トレンドを挙げるなら、若年層が低コストインデックスファンドに大量流入したことだろう。そして、その受け皿の一つになったのが、三菱UFJ国際投信が運営する「eMAXIS Slimシリーズ」だ。
若者がネットで調べて購入
この伸びの理由はどこにあるのか。そこには、投信の販売チャネルの大きな変化が影響している。「若い人が投資を始めたのが大きい。これまでの投信業界は、販売員経由で売れるものだった。ところが、自身でネットで調べて買う若年層が、選んで買ってくれた」と野尻氏は言う。
販売員が顧客に“お勧めする”形で売れる投信とは違い、顧客が自ら調べて選ぶ投信では、シンプルで分かりやすい“低コスト”が大きな強みとなる。「固定コストである信託報酬を、他社が引き下げたときには引き下げるという形で続けてきた、コストにこだわったブランドとして認識されてきた」(デジタル・マーケティング部長の今井俊輔氏)
情報を伝達する手段もブロガーやYouTuberなどだ。初期からブロガーミーティングなどを頻繁に開催し、ネット上のインフルエンサーとの情報交換を図ってきたことが、eMAXIS Slimシリーズの強みとなった。「投信ブロガーが選ぶFund of the Year 2021」では、1位と4位にeMAXIS Slimシリーズが入っており、直近では4年連続でトップを取っている。
「投信ブロガーが選ぶFund of the Year 2021」では、トップに「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」が、4位に「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」がランクイン(「投信ブロガーが選ぶFund of the Year 2021」より)
つみたてNISAのスタートと、コロナ禍でリモートワークが増加する中、選ばれたのはネット証券であり、そしてネットの中で評価される低コストインデックスファンドのeMAXIS Slimだったというわけだ。
あまりに少ない利潤 eMAXIS Slimは大丈夫か?
一方で、低コスト化の弊害も見られるようになってきた。売れ筋のeMAXIS Slim米国株式の場合、信託報酬は0.0968%。これは100万円の残高に対して968円のコストでしかない。
1兆円の残高に対して、運営会社の取り分は0.034%。ざっと年間3億4000万円の収益だ。そしてこれは約700億円の収益を持つ三菱UFJ国際投信にとっては、1%にも満たない額でもある。
「びっくりするほど利潤が薄いのはその通り。もともと残高が大きくなればペイするという考えでやってきた。最初は安くてうれしいという声が多かったが、最近は大丈夫か? と変わってきた」と今井氏は言う。
投資家にとってはコストが下がるのは歓迎すべきことだ。実際、海外の大手インデックスファンドでは、さらに信託報酬は低く、S&P500連動のETFでは0.03%まで下がっている。一方で、あまりに運営会社の利益が小さいと継続性に疑問もわく。実際、投信ブロガーが選ぶFund of the Yearの表彰式でも、行きすぎたコスト競争で継続性は大丈夫か? という声も出ていた。直近では、クレジットカードによる投信積み立てで、1%のポイント還元策の採算が合わなくなったと、還元率を大きく引き下げる楽天証券の例もある。
「途中で立ちゆかなくなったから辞めますということはあり得ない。黒字かどうかはなかなか言いにくいが、拡大すればするほど赤字が増えるとということは、全くない」(今井氏)
そもそも、eMAXIS Slimはネット証券専用に開発し、目論見書を印刷しないなどのコスト削減を推し進めて低信託報酬を実現した投信だ。兄弟投信であり店頭販売も行うeMAXISシリーズとはマザーファンドを共有しており、単体での損益が明確な仕組みでもない。
関連記事
- インデックス投信「eMAXIS Slim」純資産2兆円突破
三菱UFJ国際投信は、インデックスファンド「eMAXIS Slim」シリーズの純資産総額が12月16日に2兆円を超えたと発表した。4月に1兆円を超えてから、8カ月間で倍増した。 - 低コスト投信のeMAXIS Slim、純資産総額1兆円突破 7カ月で倍増
三菱UFJ国際投信の低コスト投信「eMAXIS Slim」シリーズ合計の純資産総額が、4月12日に1兆円を超えた。 - Fund of the Year 2020、eMAXIS Slim 全世界株式が2年連続1位
ブロガーが年に1度、支持する投資信託を選ぶ「投信ブロガーが選ぶ!Fund of the Year 2020」の結果が発表された。1位は、19年に引き続き「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)だった。 - 今なぜ若者がインデックス投資? 流行の陰につみたてNISAとYouTuber
一昔前までは、株式投資といえば上がりそうな銘柄を探してそれを買うというイメージが強かった。しかし今、若者の間でインデックス投資が流行している。ではなぜ、インデックス投資が盛り上がっているのだろうか。 - 投資信託の運用会社別ランキング トップは?
投資信託協会がまとめた7月の投資信託の状況によると、公募投信の運用額は154兆3935億円となり、過去最高となった6月の156兆6858 億円からわずかに減少した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.