豊田章男研究 春闘編:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/3 ページ)
春闘は、これまで豊田社長が戦ってきたさまざまな問題の中で最も手強いのではないか? そこで豊田社長がやったことが面白い。トヨタイムズを使って、労使交渉を公衆の面前に引っ張り出した。「全員ひとりも欠かさず○%のベースアップをお願いします」。それをサプライヤーもユーザーも見られる動画で公開したのだ。それでも言えるのか? 「言うな!」ではない。世の中のオープンな場で言えるのならいくらでも言っていい。
豊田章男氏がトヨタ自動車の社長に就任したのが2009年6月。つまり間もなく丸13年が経過する。
「創業家のボンボンが社長になって何ができるのか?」ーー。当時世の中の空気はそうだったし、ご多分に漏れず筆者も似たようなことを思っていた。このご時世にトヨタほどの企業を私物化するがごとき愚行である。それが世論の多数派だった。
斜に構えて見てきた筆者の評価を、豊田章男という人は見事にひっくり返してみせた。その最初の驚きは「もっといいクルマ」という思想であり、それを実現していくためのメソッドとしての「TNGA」であった。
もしかしてトヨタのクルマづくりは変わったのではないか? そう最初に感じた時に書いたのが「トヨタの天国と地獄ーーGMとフォルクスワーゲンを突き放すTNGA戦略とは?」だ。ちょっと自慢だが、この時点でTNGAってもしかしたらスゴいものなのではないかと書いたのは筆者だけだったと思う。まあほぼ何も情報が開示されていないので、カードがオープンになった今振り返ると、TNGAをモジュラーシャシーだと理解しているあたりは、部分的にしか分かっていなかったとは思う。
結局15年にTNGA採用の最初のモデルである4代目プリウスがデビューして以降、TNGA世代となった新型車が出るたびに、トヨタはその製品で、トヨタの変革を証明し続けて今がある。
対立軸ではなく「プリンシパル」
筆者の見立てでは、豊田社長の改革の基本は、「本音と建て前の1本化」にあると思っている。もちろん日本の財界のトップを担う1人として、何でもかんでも本音をぶちまけることは許されない。ガードも鎧も必要だが、しかしそれを可能な限り減らしていきたいという思いが節々から伝わってくるのだ。
豊田社長は折に触れて「対立軸で見ないで下さい」と言い続けている。では対立軸ではない何を重視するかといえば、そこにあるのはおそらく「プリンシパル」つまり「原理原則」だ。
それはカーボンニュートラルに対しての発言でも同様だ。「我々が決めた正しい選択肢を広める」のではない。そのスタンスだと「正解」と「不正解」の対立にしかならないからだ。
トヨタのスタンスは「多くの良き選択肢を用意して、市場の判断に任せる」ということでもある。「BEVこそ正義」ではなく、地域や財力や環境が導く「それぞれの正義」を自由に選ぶためのマルチソリューションであり、原理原則であるカーボンニュートラルに誰もが貢献できる製品づくりを推進しようとしている。
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