食品ロスを減らそうとしたら宿泊客から「料理がないぞ!」 朝食ブッフェの“深刻”なジレンマ:瀧澤信秋「ホテルの深層」(3/3 ページ)
コロナ禍で変化したホテルの朝食ブッフェ。筆者がリピートしているビジネスホテルでもある変化があった。その理由とは……。
21年度のロス金額はおおよそ6分の1に減少
ロス対策前の19年度と対策後となる21年度を比較してみる。19年度の朝食ロス金額は6000万円ほどだったが、対策を進めたことで21年度のロス金額はおおよそ6分の1に減少。約30店舗を運営する会社なので、単純計算で1店舗あたり200万→30万〜40万円に削減といった効果だろうか。
具体的な売り上げ・喫食人数・ロス金額は以下の通りだ。
年月 | 朝食売上(円) | 喫食人数(人) | ロス金額(円) |
---|---|---|---|
2019年度 | 8億4589万2838 | 112万675 | 6927万8378 |
2021年度 | 5億6199万9599 | 68万8038 | 1193万9715 |
コロナ禍で利用者数に変化があったことを考慮したとしても、その割合を見ればロス金額の差は歴然だ。実際の運営現場と数字については、具体的な利益なども含めて引き続き細かい分析ができればと考えている。
その一方、ロス減少による口コミ評価の変化も気になるところだ。鋭意リサーチ中だが、やはりブッフェ朝食付きで予約しても「料理がない」というゲストからの苦情の有無は注視していきたい。
料理が並ばないブッフェとホテルにおける食品ロス問題・SDGsの浸透は、終局的には流通構造の変化ということになるだろう。運営現場単位では、適切なタイミングで料理を補充するといったようなマンパワーも含めた円滑なオペレーションの一体化は不可欠と指摘できる。そうしてはじめて相乗効果を生んでいくことは間違いなく、まだまだ時間が必要なテーマといえる。
著者プロフィール
瀧澤信秋(たきざわ のぶあき/ホテル評論家 旅行作家)
一般社団法人日本旅行作家協会正会員、財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボード。
日本を代表するホテル評論家として利用者目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。その忌憚なきホテル評論には定評がある。評論対象は宿泊施設が提供するサービスという視座から、ラグジュアリーホテルからビジネスホテル、旅館、簡易宿所、レジャー(ラブ)ホテルなど多業態に渡る。テレビやラジオ、雑誌、新聞等メディアでの存在感も際立ち、膨大な宿泊経験という徹底した現場主義からの知見にポジティブ情報ばかりではなく、課題や問題点も指摘できる日本唯一のホテル評論家としてメディアからの信頼は厚い。
著書に「365日365ホテル」(マガジンハウス)、「最強のホテル100」(イースト・プレス)、「辛口評論家、星野リゾートへ泊まってみた」(光文社新書)などがある。
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