日本から百貨店がなくなる日――そごう・西武の売却から考える“オワコン業界”の今後:ヒントは海外・他業界にあり?(2/3 ページ)
そごう・西武の売却は、「日本から百貨店がなくなる日」の予兆かもしれないと筆者は解説する。もはや“オワコン”ともいえる百貨店業界は、これから先どうすればよいのか。他業界や海外事例にヒントがありそうだ。
そごうと西武、バブルに支えられ急成長を遂げた大衆向け量販型百貨店は、その衰退もまた同じようにバブル崩壊とともに訪れました。そごうはバブル期の多額の借金に押しつぶされる形で2000年に経営破綻。西武は03年に2200億円の債権放棄による私的整理と相成り、再起を期した両社統合を経て、06年にセブン&アイ傘下に入るわけです。当時のセブン&アイ会長で「小売りの神様」と呼ばれたカリスマ経営者の鈴木敏文氏が、「流通の各業態を複合的に結び付け、グループとしてのシナジーを生ませる」と、力強く胸を張ったのが印象的でした。
しかし、既にオワコンだった百貨店の再生は一筋縄ではいかないわけで、そこにさらに外資も入り乱れてのファストファッションの台頭、一流ブランドショップが低価格で商品提供するアウトレットモールの林立、手軽にさまざまな商品が手に入るECビジネスの拡大などが追い打ちをかける形となるわけです。しかもそごう・西武に不幸だったのは、セブン&アイ傘下入り後の相乗効果に自信を見せていた「神様」鈴木敏文氏が、再建改革の志半ばで社内抗争に敗れ退任を余儀なくされたことです。鈴木氏が健在であったなら、どのような次の一手を打っていたのか、今では知る由もありません。
21日に締め切られたそごう・西武への一次入札には、既に複数の応札があったといいます。同時にそれらは全て投資ファンドだとの報道もされています。事業会社には多額の資金を投じて買い取っても、もはや収益モデルを描けないというのが実情なのでしょう。そごう・西武の行く末は、不動産と流通ビジネスが解体・売却の憂き目に会って、その名が跡形もなく消滅するのではないかという予感も漂います。他の電鉄系百貨店も、業態転換等の思い切った改革が功を奏さないならば、早晩同じような運命が待ち受けているのかもしれません。
百貨店が参考にすべき金融機関の取り組み
ここ2年のコロナ禍は、電鉄系はじめ大衆向け量販型ばかりでなく、名門である呉服屋系の百貨店をも大きな苦境に陥れています。ただ名門呉服屋系には古くからのお得意先という名のそれなりに厚みのある富裕層取引があるので、生き残り策としてその強みを生かした戦略が描けるなら一縷(いちる)の望みがあるとも感じられます。富裕層の購買意欲はコロナ禍にあってもかなり旺盛で、日本百貨店協会の調べでは、コロナ禍で全体の売り上げが伸び悩む中、「美術・宝飾・貴金属」の売り上げが前年比約30%増(東京地区)というデータが出ています。
ちなみにこの流れは、近時の大手金融機関の戦略とよく似ています。金融取引はネット活用によって安価な手数料で大半がスマホで済む時代になり、収益性を重視する立場での銀行や証券会社の関心はリアルの富裕層取引をいかに膨らませていくかに移ったといえます。具体的には、メガバンクではマス個人層を軒並みコンビニバンクとネットバンクに誘導しコストを抑えることに主眼をおいており、新たな収益源は富裕層向けのオーダーメイド取引拡大に移行しつつあります。ネット証券の隆盛によって、売買手数料が限りなくゼロに近くなった大手証券会社もまたしかりです。富裕層取引重視は、ネット浸透社会における個人向けリアルビジネスの最重要ピースなのです。
名門である呉服屋系百貨店は小売業界でそれができる数少ない存在であり、三越伊勢丹では既にその動きが出ています。
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