売却はそごう・西武にとどまらず? イトーヨーカ堂に迫る魔の手と、カギを握るスーパー:どうなるセブン&アイHD(1/4 ページ)
セブン&アイHDによる、「そごう・西武」の売却方針の発表が大きな話題を呼んだ。ここで筆者が気になるのが、イトーヨーカ堂の動向だ。グループの食品販売チャネルを担う同部門において、カギを握るのが「あるスーパー」だという。
1月末、セブン&アイ・ホールディングス(HD)が、傘下の百貨店「そごう・西武」の株式を売却することで調整に入ったという記事が報じられると、関係筋は騒然となった。その売却想定額は2000億円で、複数の事業会社やファンドが関心を寄せているといった内容だが、買い手は誰になるか、その想定価格は妥当なのか、といった話題でかなり盛り上がっていた。発端は、セブン&アイHDの約4.4%の株式を保有する米有力アクティビスト(いわゆる「モノいう株主」)のバリューアクト・キャピタルが部門売却や分社化を含む「戦略的選択」を検討するよう書簡を送ったことにあるようだ。報道によれば、セブン&アイHDの不採算部門のテコ入れを求める声は他の投資家からも上がっていたという。
セブン&アイHDのセグメント収益の構成を見れば一目瞭然だが、大きな収益を稼ぎ出しているのは、いわずと知れたコンビニエンスストア「セブン‐イレブン」の国内外部門であり、足を引っ張っている赤字部門は百貨店、専門店ということになる。
百貨店、専門店部門の赤字はコロナ禍による大型商業施設の営業規制の影響が大きく、専門店に関しては、コロナ前には相応の利益を上げていた。ただ、百貨店に関しては売り上げ、利益ともに低落傾向が続いており、今回の投資家から指摘の不採算部門に当たり、会社としてもそうした声に応えた売却ということになるのだろう。
次の図表は、そごう・西武が傘下入りした2006年以降の主要セグメントの営業利益の動向であるが、百貨店が長期的に右肩下がりで推移してきたことが分かる。
かつては百貨店業界における大手プレイヤーであったそごうと西武は、バブル崩壊後の経済停滞の下で起きた00年代初頭の金融危機の波に飲み込まれて経営破綻した百貨店である。再生の過程で両社が経営統合してミレニアムリテイリングという流通グループを形成以降、セブン&アイHDの傘下に入った。そごう・西武は、再生手続きを通じて多くの不採算店を整理して、残った28店舗をもって再スタートしたのである。
ただ、百貨店業界が、長期間にわたって市場縮小に苦しんでいる厳しい業界だと知っている今のわれわれからすると、セブン&アイHDは、何でわざわざ破綻した百貨店なんかに投資したんだろう、と不思議に思うかもしれない。その意味では、00年代初頭の時代背景について確認しておく必要があるだろう。
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