新生ハンズが地方に大量出店? 「王者」カインズの東急ハンズ買収から見える、意外な未来:ニトリの背中も見えてきた(1/4 ページ)
業績不振に苦しんでいた東急ハンズを、ホームセンター業界の王者・カインズが買収する。ニトリの背中も見えてきた同社は、かつて時代のトレンドを生み出してきたハンズをどう変化させるのか。
2021年末、東急不動産ホールディングス(HD)のグループ企業であった東急ハンズ(以下、ハンズ)が、ホームセンター最大手カインズの傘下入りを発表した。大都市生活における「住まいと住生活・手づくり関連の製品・道具・工具・素材・部品の総合専門小売業」として歴史も長い同社には思い入れのあるファンも多く、この会社がM&Aの対象となったことは、大きな話題となった。ただ、業績をひもとけば、その経営は決して楽ではなかったようだ。
コロナだけではない、業績不調の原因
次の図表は、ハンズの決算公告から抜粋した業績データだ。
16年〜20年3月期の売り上げはほぼ横ばいで推移していたが、21年3月期は緊急事態宣言による商業施設の営業規制などの影響を受け、大幅な減収となった。経常利益はほぼ一桁で推移、売上高経常利益率も1%以下とほとんど収益が出ていなかったところに、コロナ禍の直撃で大幅赤字となってしまった。当期純利益も見ると赤字の期が多く、これは不採算店舗の整理が続いていたということであり、コロナ前からハンズは悩ましい経営状況にあったことが分かる。
厳しい状況に追い込まれたのは、ECの浸透に伴う「店舗のショールーム化」が主要因であるといわれている。ハンズは多種多様な雑貨のセレクトショップであり、センス・目利きにより、世に知られる、あるいはブームとなった商品も多い。こうした「ロングテール戦略」といわれる、売れ筋以外にも多様な商品を取りそろえ、スタッフの説明力で良さを伝えていくことが、ハンズの魅力だったが、無尽蔵に品ぞろえ可能なECの普及によって、優位性を失った。それどころか、ハンズが人件費を負担している店舗スタッフの知識豊富な接客を受けた上で、EC上の最安値で購入するという購買行動が一般化してしまえば、ハンズの立つ瀬がない。「ショールーム化」は、セレクトショップにとって、極めて厳しい環境変化だったのである。
出店立地を主にショッピングモールへ定めたことも、結果としてあまりいい選択とはいえなかった。
関連記事
- カインズに売られた「東急ハンズ」は、なぜライバル「ロフト」と差がついたのか
東急ハンズをこよなく愛する人々の間に激震が走った。ホームセンター大手のカインズが親会社の東急不動産ホールディングスから買収することを発表したからだ。東急ハンズが低迷した背景に何があるのかというと……。 - ワークマンやカインズを育てた群馬発「ベイシアグループ」の正体
高成長を続けて注目されるワークマンやカインズ。これらの企業は「ベイシアグループ」に属する。1958年、群馬県に誕生した「いせや」はなぜここまで成長したのか。 - 「国道16号」を越えられるか 首都圏スーパーの“双璧”ヤオコーとオーケー、本丸を巡る戦いの行方
コロナ禍で人口流出が話題となる首都圏だが、「国道16号線」を軸に見てみると明暗が大きく分かれそうだ。スーパー業界も16号を境に勢力図が大きく変わる。そんな首都圏のスーパー業界勢力図を、今回は解説する。 - イオンとヤオコー、スーパー業界の優等生がそれぞれ仕掛ける新業態の明暗
イオングループのスーパーにもかかわらず、トップバリュ製品を売らない新業態「パレッテ」。高品質が売りのヤオコーが新たに仕掛ける、低価格業態「フーコット」。両社の狙いはどこにあるのだろうか? - 競合は無印とニトリか 「イオン・キャンドゥ」タッグで再編進む100円ショップ業界の今
100円ショップ業界3位のキャンドゥが、イオンとの資本提携を発表したが、キャンドゥの狙いはどこにあるのか。もはや「100円」の商品だけでなく、さまざまな商品を扱う同業界の今を探る。 - オーケーに関する2つの誤解 関西スーパーが守ったものと失ったものとは?
買収劇で渦中のオーケーと関西スーパー。小売・流通業界に筆者は、オーケーに関する「2つの誤解」が問題を複雑にしていると指摘する。加えて、関西スーパーが守ったものと失ったものを解説することで、今回の騒動をひもといていく。 - マツキヨ・ココカラ不振の裏で、「肉・魚・野菜」の販売にドラッグストア各社が乗り出す納得の理由
コロナ禍の追い風が吹いたドラッグストア業界の中でも、売り上げ減だったマツキヨ・ココカラ。その背景には何があったのか。また、ドラッグストア各社でなぜ、「生鮮食品」の販売が広がっているのか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.