もはや「大企業誘致」は時代遅れ! 今、地方経済の活性化で「地場スーパー」が大注目なワケ:なぜ、「勝利の方程式」は崩れたか(1/4 ページ)
地方経済の活性化において、これまでは大企業を誘致し、工場の設立などを軸とした雇用創出などが「勝利の方程式」であった。しかし今、大きく時代が変わる中で、もはやそうした方程式は崩れつつある。そこで筆者が注目するのが、地場スーパーだ。
半導体製造の世界最大手TSMC(台湾積体電路製造)が熊本県内に半導体工場を新設するというニュースは、大きな話題となったのでご存じの方も多いだろう。約8000億円を設備投資する大規模な半導体製造工場で、新規雇用1500人の創出が見込まれるということもあり、日本政府がその半分の4000億円相当の補助金を出して誘致するようだ。この大型工場誘致の予定地が、熊本県の菊陽町という田舎町なのだが、この町、過疎化に悩む地方において人口増加が続いている全国でも珍しい自治体である。
菊陽町は、熊本県の県庁所在地かつ政令都市である熊本市の東側に隣接する、人口4万3千人ほどの町だが、図表にみられるように今でもその人口は増え続けている。
インターネットなどで調べると、「熊本市のベッドタウン」と紹介がされているのだが、首都圏などにおけるベッドタウン(東京都に通勤、通学している人が住んでいる街)というイメージとは若干ニュアンスが異なる。菊陽町に人が増え始めたきっかけは、ソニーグループなどが立地するセミコン団地(半導体工業団地)や富士フイルムなどの製造拠点がいくつも散在すること、また隣接する大津町には本田技研工業熊本工場、合志市には東京エレクトロンなどの大手企業や関連する企業の製造拠点が集積しており、そこに勤務する人たちが居住したことが大きい。
つまり、必ずしも地域の中心地である熊本市に通勤する人のベッドタウンという構造にはなっておらず、その証拠に菊陽町地域の朝の通勤時のクルマの流れは、市街地から郊外の工業団地に向かって混雑し、夕方はその逆となっている。郊外の住宅地と工業団地との移動が多く、大都市型の放射状の交通移動とは異なる横移動の動線が作り出されているのだ。こうした大手製造業の誘致を背景として、菊陽町のみならず、近隣の合志市、大津町、嘉島町、益城町などの自治体の人口は増加基調にあり、全国の人口増加自治体ベスト10に熊本県の自治体が4市町ランクインしている。
ただ、この地域の人口増加を支えているのは、働く場所と住宅地の整備だけではなく、郊外型大型商業施設も併せて誘致したことによって、地域の日々の生活の利便性が充実しているということが大きい。
この地域の開発が始まって間もない04年にオープンした「ゆめタウン光の森」は、総合スーパー大手で中四国、九州を地盤とするイズミが運営する敷地面積7万8000平方メートル、商業施設面積約4万平方メートルの大型商業施設で、シネコンを含めた150店以上のテナントと、3400台の駐車場を備えたいわゆる郊外型ショッピングモールである。イズミの基幹店にも位置付けられる施設でもあり、このゆめタウンのオープンによって、地域住民はここに来ればほとんどの日々の用事が済むようになった。
オープン以降、周辺の幹線道路の交通量が飛躍的に増加したため、その動線を狙ってロードサイドにはさまざまな小売店、飲食店、郵便局本局、金融機関、医療機関などが進出するようになり、首都圏でいえば16号線沿いのような「ロードサイド銀座」的な集積が自然発生した。結果、この地域の住民は周辺地域内を出ることなく生活する環境が整い、その利便性から住宅地としての価値が向上したため、さらに新たな住民が呼び込まれる――という好循環が実現している。
せっかくなので、どんな店が地域内にあるか、その利便性についてちょっと補足したい。
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