赤字ローカル線存廃問題 「輸送密度」だけで足切りするな:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(8/8 ページ)
地方ローカル線は、従前からの過疎化と少子化に加えて、疫病感染対策の長期化で危機的状況にある。特に輸送密度2000人未満の線区が課題とされるが、そもそも民間企業が赤字事業から撤退できないという枠組みがおかしい。公共交通は応益主義であるべきだ。そこで存廃問題で使われる「輸送密度」について考える。
ローカル線も費用便益比で議論しよう
千葉県のいすみ鉄道が「ここになにもないがあります」と、半ば開き直って宣言し、昭和の車両を導入し、昭和の原風景を再現した。レストラン列車も走らせた。地域の貢献度は高く、鉄道ファンや観光客が訪れる。
クルマで来て写真を撮る人も、沿線で食事をし、産地直売所で重い産物を買い、ガソリンスタンドで給油して帰る。経済効果はあったはずだけど、これはいすみ鉄道の経営成績には反映されない。数字がないと沿線の議会でも評価されない。
新幹線を誘致するときに、沿線自治体は独自に「費用便益比(B/C)」を計算する。新幹線単体の収支ではなく、費用に対して経済効果はどのくらいあるか。費用便益比が1を超えると、国に対して説得材料が増える。さらに費用便益比の精査が行われ、基本計画路線が整備路線に格上げされる。
鉄道の新線計画もそうだ。空港連絡線、ニュータウン路線の延伸は、借金の返済計画も含めた「費用便益比」が重視される。
ローカル線も新幹線と同じように「費用便益比」を検討すべきではないか。「費用便益比」には、バス転換による経済損失などデメリットも盛り込まれる。輸送密度だけの議論は危うい。鉄道が担ってきた「帳簿に現れない役割」を失いかねない。廃止した後で気付いても遅い。
国鉄時代の赤字ローカル線廃止問題は輸送密度4000人/日の路線が廃止対象になった。ただし例外規定もあった(出典:国土交通省、第1回 鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会、【資料3】参考資料)
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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