BANK Payっていったい何だ? 単なるQRコード決済ではないその秘密:金融ディスラプション(3/3 ページ)
BANK Payというサービスをご存じだろうか? よくある説明だと、「PayPayのようなQRコード決済の1つ。ただし、利用すると銀行口座から即座に料金が引き落とされる」なんて書かれている。これは間違いではないが、BANK Payの一つの側面しか見ていない。
J-Debitのネットワークを活用
このように見ていくと、BANK Payとは消費者向けのコード決済サービスは一側面であり、B2B2Cの形で銀行口座からのチャージ機能を提供するサービスでもあるということが分かる。
各銀行は、銀行口座から即時引き落としの形でクレジットカード加盟店で利用できるブランドデビットも促進している。しかし「BANK Payは法人向けソリューション、ブランドデビットは個人向けソリューション。両者はカニバらない」(磯和氏)というわけだ。
別の視点で見ると、BANK Payは各銀行と契約しなくてはならない口座振替を、アグリゲーションしてくれるサービスともいえる。どのようにしてこの仕組みができあがったのか。
00年にサービスを開始したJ-Debitという仕組みを知っているだろうか。銀行のキャッシュカードを使い、口座から即時引き落としができるというサービスで、メガバンクやゆうちょ銀行をはじめ、数多くの金融機関が参加している。コンビニで使えないなど対応する加盟店が少なく、店頭でキャッシュカードを出して暗証番号を入力するというセキュリティへの不安などから、普及はごく一部にとどまった。しかし、ここで複数の金融機関を束ねて即時決済を行うネットワークが構築されたわけだ。
実はBANK Payを提供するのは、J-Debitを提供する日本電子決済推進機構、通常JEPPO。つまり、BANK PayはJ-Debitのネットワークを、形を変えて利用しているというわけだ。
お店のレジがATM代わりに
実はJ-Debitのネットワークは、ほかにも2つほど面白い使われ方をしている。1つは、個人間の多頻度小口決済を実現する「ことら」だ(記事参照)。
メガバンク5行が22年度上期中にサービスをスタートさせる予定だが、送金手数料は極めて安い。通常の銀行間送金は、日銀口座を使う全銀ネットを利用するが、ことらではJ-Debitのネットワークを利用することで、低価格送金を実現する。BANK Payでもことらと接続して個人間送金を実現する計画だ。価格は無料または無料に近いものになる予定で、「三井住友銀行は無料にする」(磯和氏)計画だ。
先に、地銀からのBANK Payへの参加打診が増えていると書いたが、その理由はことらにある。ことらに参加したい地銀が、BANK Payに参加することでことらを利用できるようにしたいというわけだ。
もう1つ、面白いのが「キャッシュアウト」サービスだ。銀行口座からの即時引き落としが可能なJ-Debitの仕組みを利用して、対応店舗のレジから現金を引き出せるというもの。全ての加盟店と金融機関が対応しているわけではないが、いわば有人レジをATMの代わりに使えるようにする仕組みだ。
金融機関はコスト削減のために独自ATMの数を減らしてきている。一方で、まだまだキャッシュレス比率が低い状況でもあり、現金を引き出せる場所の確保も重要だ。セキュリティの観点でも、機械に暗証番号を打ち込むより、店員とやりとりしながら現金を引き出す方が、今となってはよいかもしれない。
このように、BANK Payを「PayPayのようなQRコード決済サービス」だと思うと、半分理解し損ねてしまう。複数の銀行を束ねた送金の仕組みであり、「銀行口座の価値を上げる」(磯和氏)ことを目指した仕組みだと考えると、その狙いが分かるのではないだろうか。
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