並行在来線会社名「ハピラインふくい」 未来に“福”はやって来るのか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(8/8 ページ)
2022年、日本の鉄道は開業150周年を迎える。長い歴史ゆえに保守的な考え方に支配されやすい。しかし第三セクター鉄道会社は「道南いさりび鉄道」「IGRいわて銀河鉄道」など、保守的な考えを破ってきた。そして22年7月、新たなキラキラネーム会社が誕生する。「株式会社ハピラインふくい」、愛称「ハピライン」だ。
開業10年後に県内の鉄道統合も視野
「ハピラインふくい」には10年後のシナリオも検討されている。えちぜん鉄道、福井鉄道との一体化だ。20年9月の福井県議会で、知事が「開業10年後に向けて、どういう経営形態にするか検討していく」と述べた。最大会派の自民党から、経営基盤強化や効率化の検討が必要ではないかとの質問だった。
すでにえちぜん鉄道と福井鉄道は16年から直通運転を開始し、資材の共同調達や工事の一括発注で効果を上げているという。開業10年後という期限は、開業から10年間はJR西日本からの出向を受けて事業の指導応援を受けており、その後は所属社員のみの運営になるからだ。ただし、この話は議会答弁にとどまり、具体的な動きはない。
県内鉄道一体化は、22年3月に新潟県議会でも質疑応答が行われた。えちごトキめき鉄道と北越急行の一体化案として問われ、交通政策局長が案の1つとして協議したいと答弁した。こちらも具体的な話は出ていない。しかし、新潟県も福井県も、県内の総合交通体系を考えたときに、同一業種の統合の可能性については考慮していると思われる。
10年後はさておき、「ハピラインふくい」の課題はまず無事に開業すること。次に利用者数を増やして県民の幸福度向上に貢献することだ。福井県最大の鉄道会社の責任は重い。明るくて楽しげな会社名は、その責任の重さを軽々と担ってくれそうだ。なにかにつけて「できない、無理」と動いてくれない保守的な人々を、この会社名が改心させるかもしれない。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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