九州と北海道 2つの高級クルーズ列車は、リピーターを獲得できるのか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/10 ページ)
高級クルーズトレインの先駆者「ななつ星in九州」と北海道を巡る「THE ROYAL EXPRESS 〜HOKKAIDO CRUISE TRAIN〜」に新コースが設定された。どちらも国内観光需要の盛り上がりに向けた対応だ。しかし定員を減らして三密を避けつつ、運行とサービスを維持するには顧客単価を上げる必要がある。
「ななつ星in九州」のリニューアルの狙いは「定員を減らし単価を上げる」だ。
コロナ禍で旅行需要が落ち込んでいる。乗客数を減らして運行とサービスを維持するためには単価を上げる必要がある。JR九州はそれを良しとした。9年間の運行で手応えがあったからだ。
リピーターのために「さらに上級のサービスを」というテーマがあるだろう。客室は14室から10室へと4室減らし、従来は3室あった3号車にバーラウンジとギャラリーショップを置く。ダイニングカーだった2号車はサロンと茶室がある。もう1室だけ減る勘定になるし、3号車にあったバリアフリー対応室がなくなるから、これを4〜6号車に移す必要もある。
したがって4〜6号車のどれかに変化があるはずだ。しかし基本的には部屋を変更しない。これもリピーターへ「おかえりなさい」という演出であろう。
「ラウンジカーにもともとテーブル席がある」という情報は、「ななつ星in九州」の体験者なら分かることだった。公式サイトに車両の見取り図もあるけれど、縮小しすぎで座席の配置が分かりにくい。報道資料で「食堂車が消えた」と思う人は、私のように乗ったことがない人だった。恥ずかしい思いをしつつ、乗車経験のない人に誤解を生じやすい内容だと思う。
私が「食堂車が消える」と勘違いした理由は、「乗ってない」以外にもうひとつある。それは日頃から「食堂車が高級にふさわしいか」と思っているからだ。
食堂車には往年の鉄道旅の郷愁があるし、動くレストランは非日常の空間として楽しめる。しかし、高級旅館では部屋食、ルームサービスが普通だ。食堂は施設側の配膳要員や片付け都合で宿泊客を呼び出す施設ともいえる。温泉大浴場より個室露天風呂のほうが高級だ。高級になるほどサービスの中心は部屋になる。
「ななつ星in九州」の供食がルームサービス主体に切り替わったら、それこそ「高級の証」だろうと考えた。しかし今回は「展望ラウンジ食堂」の楽しさが勝ったようだ。ちなみに「ななつ星in九州」は乗客の希望によりルームサービスも対応するという。
「ななつ星in九州」は、抽選によって申し込みが確定してから乗車まで約半年間ある。この間、「ななつ星in九州」のスタッフは乗客と電話などで連絡を取り合い、出来る限り要望をかなえてくれる。私は魚介類が苦手という偏食で、国内の食事付き旅館を敬遠している。そんな私のために「ななつ星in九州」のスタッフは半年前からメニューを整えてくれるそうだ。そういわれると応募してみたくなった。
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