「残業代を抑えたいので固定残業制にしたい」 とある会社の社長がハマった勘違い:メリットとデメリット(3/3 ページ)
「残業代を抑えたいので、すぐにでも固定残業制を導入したいです」――そんな相談をしてきたのは、とある中小企業の社長です。この相談には、どんな勘違いがあるのでしょうか?
(1)長時間労働の温床になる可能性がある
固定残業制は生産性が高くなるメリットがある一方、従業員に固定残業制の趣旨や目的を理解させないまま運用をしていると長時間労働の温床になる可能性があります。通常なら所定労働時間で終わる仕事も、固定残業制で決められた残業時間を全て使って仕事を終わらせればいいと考え、ダラダラと仕事を行う人が出てきます。
また、固定残業時間分を働かせることを前提として、所定労働時間で終わらせることができないような業務量を指示する上司も一定数います。長時間労働が常態化すると、従業員の体調不良はもちろん、職場の雰囲気が悪化やハラスメントの発生を引き起こしやすい環境になりかねません。会社として固定残業制を導入した趣旨や目的を発信し、現場でも正しく理解してもらうことが必要になります。
(2)簡単に廃止することができない
制度を導入した後に「残業も少なくなってきたし、そろそろ固定残業代をやめよう」と思っても、単純には廃止できません。なぜなら、不利益変更に該当する可能性が高いからです。労働条件の不利益変更を行う場合は、労働者の合意を得ることが原則です。そのため、導入する際には将来を見越して慎重に検討しましょう。
導入のポイント
固定残業制を適切に運用できていなかったときは、固定残業制自体が認められないリスクがあります。残業代の支払いが無効と判断されれば、固定残業代は通常の賃金として割増賃金の計算のもととなる金額に含めることとなり、想定していた残業代よりも多額の残業代を負担することになるのです。
固定残業制を正しく導入するためには、まず、就業規則に規定した上で、労働条件通知書等で基本給と固定残業を区分しておかなければなりません。
また、固定残業部分に相当する時間数の明記も必要です。例えば、基本給に含めている場合には「〇時間分の時間外労働を含む」と明記するのではなく、「〇時間分の時間外労働として〇〇円を含む」というように、何時間分でいくらなのかを記載する必要があります。また、その固定残業制で定めた時間を超えて働かせた場合には、その差額を労働者に支払う旨も記載することになります。
固定残業制を導入する際には正しく運用すること、そして従業員に導入する目的や趣旨を理解させることが必須になります。生産性を高め、会社の成長につなげる方法として検討してみてはいかがでしょうか。
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