DeNAはなぜ「退職者」を新卒採用イベントに登壇させるのか:「起業志望者」も採用する理由(3/4 ページ)
「退職」――この言葉はどちらかというとネガティブに受け取られがちなものだろう。しかし、退職者をあえて採用イベントに呼んで、語ってもらうという風変わりな企業がある。DeNAだ。
「いずれは起業したい」と考える入社志望者を、はじかない理由
DeNAの採用活動を特徴づけている別の点は、選考過程の中盤から採用候補者に対してメンターをつけていることだ。しかしそれは決して取りこぼしのないようにするため、つまり採用ミッションの「挑戦者を惹きつけ」るためではないと小川氏は言う。
「候補者が自分でも気づいていない、価値があると思っているもの、将来こうありたいと思っている姿やビジョンを明確にし、形作るのを助けるためにつけている」(小川氏)
例えば、DeNAでキャリアを積んでから起業したいと考える人が応募してきた場合、「なぜ起業したいのか」「何のために起業したいのか」を掘り下げていく。その中で、「入社するより、今すぐ起業したほうがいい」「起業するより、社内で実現したほうがいい」という気付きを得られることもある。前者であれば、自ら採用を辞退することもあるだろう。
また、メンタリングしていく中で、お互いに一緒に働くことがベストマッチングではないと気付くこともある。「その場合でも、会社側から、受けるのを辞めたほうがいい、という言い方はしない」と小川氏。「メンターも一人の人間なので、その人がどう考えているのかを完全に判別できるわけではない。本人がどうしたいか、それに気付いて選択するその結果に任せている。決して行動を制限することはない」。
小川氏が幾度も強調していたのは、「応募してきた人へもDelightを届けたい」というもの。「Delightを世の中に届けるのがDeNAのミッション。誰でも時間が無限にあるわけではない。その大切な時間を割いて選考へ応募してくれた人を大切にし、その人にとってのDelightを届けたい」というのだ。
そのため、採用でありがちな“上から目線”というものはDeNAの採用では存在しない。「お互いに対等であり、かつ応募者のことをリスペクトし、その人の今後の人生に全力でコミットすることが重要であり、人事部で何度も議論を重ね、共有しているバリューだ」と力説した。
そして、「応募してくれても、お互いに一緒にならないほうがいい、という結論に至った場合でも、一度はDeNAを志してくれたわけなので、何処か別の場所で輝いてDelightを世の中に届けてくれる人になるよう、選考期間が有意義なものになるよう気を付けている」と付け加えた。
メンターが一人一人につくことで、自分の内なる人に気付き、それに基づいて入社するかどうかを自発的に選択できる。採用を見送ることがあるのは、本人が納得して選んだ決定を尊重するからなのだ。
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