“経営に役立つ人事戦略”は、どうすれば実現できる? 人事の「人的資本経営」の始め方:まず着手すべきこと(2/2 ページ)
最近注目の「人的資本経営」。国内でも、対応する動きが確実に進んでいます。人的資本経営を進める上で、人事部に期待されるものは何でしょうか。
人的資本関連情報の分析と開示
もうひとつ、人事部としては人的資本関連の情報を分析し人事施策の立案・改善に活用したり、社外に開示するための情報を関連部門に提供することが求められるようになります。
では、企業としてどのような情報を収集し、分析・開示する必要があるのでしょうか。20年に上場企業への人的資本情報の開示を義務化した米国の例を見てみましょう。
米国では現在、「人材投資の開示に関する法律」であるWorkforce Investment Disclosure Actが、上院で審議中です。この法律では下記8つの項目での開示を義務付けています。
【開示を義務付けている項目】
- 1. 契約形態ごとの人員数(Workforce demographic information)
- 2. 定着・離職、昇格、社内公募(Workforce stability information)
- 3. 構成・多様性(Workforce composition)
- 4. スキル・能力(Workforce skills and capabilities)
- 5. 健康・安全・ウェルビーイング(Workforce health, safety and well-being)
- 6. 報酬・インセンティブ(Workforce compensation and incentives)
- 7. 経営上必要となったポジションとその採用の状況(Workforce recruiting and needs)
- 8. エンゲージメント・生産性(Workforce engagement and productivity)
ただし、現時点ではこれ以上の詳細部分は未確定のようです。そのため「本法案の各項目の開示基準の策定はSECが行うが、法律制定後2年以内に策定が完了しない場合、開示基準としてISO30414が適用される」(※1)と追記されています。
(※1)経産省第4回人的資本経営の実現にむけての検討会事務局説明資料より
つまり現時点では、ISO30414をベースに分析・開示の準備をするのが良いということになります。
一般社団法人HRテクノロジーコンソーシアムの「“ヒューマンキャピタルレポーティング”の新たなグローバルメガトレンドISO 30414 -HR領域初の国際標準ガイドラインがもたらす未来予測-」では、ISO30414で求められる情報の概要を確認できます。開示すべき情報が大きく11領域で指定されていますが、今回はそのうちイメージしやすい3領域の情報を確認してみましょう。
後継者計画
- クリティカルポジションにおける内部昇格者の割合(後継者有効率)
- リーダーポジションの数に対する後継者候補プール数の平均の割合(後継者カバー率)
- 期間ごとに後継者を準備できるクリティカルポジションの割合(後継者準備率)……(1)即時/(2)1〜3年で準備完了/(3)4〜5年で準備完了
ダイバーシティ
- 年齢、性別、障害などに関する組織における割合
- 取締役会メンバーやマネジメントチームの多様性
- その他の多様性の指標
スキルと能力
- 人材開発や研修の総コスト
- 研修への参加率
- 従業員あたりの平均研修時間
- 研修カテゴリごとの参加割合
- 労働力のコンピテンシーレート
ISO30414では、上記のほかに「労働力可用性」「リーダーシップ」「コスト」「生産性」「採用・異動・離職」「組織文化」「健康経営」「コンプライアンスと倫理」の全11領域、58項目が挙げられています。人的資本経営を実現するためには、このような観点で情報を管理していく必要があるのです。
後編記事では、「こうした情報の管理に、タレントマネジメントは有効か?」をテーマにお届けします。
後編はこちら
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