安心の「正社員制度」なのに、心理的資本が低下する理由:4つの因子(2/2 ページ)
日本的な雇用や処遇は、そこで働く人たちの心理的資本を毀損しないようにできているはずなのだが……。
社内で激しい競争があるわけでもなく、重い責任を負わされるわけでもなく、給与も評価によってそんなに大きな差がつくこともないので、精神的な疲弊は少ないはずです。実際、欧米における「椅子取りゲーム」の激しさや、評価による給与差は、日本とは比較になりません。要するに、日本企業は伝統的に(少なくとも欧米企業に比べれば)、心理的資本を大切に考えてきたはずなのです。
こう考えると、問題は、従業員の心のありように十分に配慮してきた日本企業において心理的資本が低下してきているとすれば、それはなぜなのかということです。言い方を変えれば、先述の橋本氏が言う心理的資本の4つの因子、(1)希望(2)自信(3)回復力(4)楽観が失われていくような、現代的な新しい原因があるのではないでしょうか。
例えば、「勉強不足」。高度化・専門化したスキルや知識などについていけない人は、自信が持てず、楽観もできません。現状維持を志向し、何か新しいことをやってみようとはしませんから、自分のキャリアに希望も持てません。このような人が増える組織には心理的資本は蓄積されません。
他には、「自由の不足」もありそうです。コンプライアンスという大義名分のもとで増殖し続ける社内手続きや、チェック・報告に関する業務は、働く人たちから大量の時間と意欲を奪ってしまっています。過剰なリスクヘッジは時間や意欲だけでなく、機会をも奪ってしまい、成功も失敗もできない状況のように見えます。失敗をさせてもらえないわけですから、回復力などあってもなくても関係ありません。
2020年に流行語となった「ブルシット・ジョブ」(“クソどうでもいい仕事”)のような仕事が増えているのも確かでしょう。誰のために、何のためにやっているのか、どのような価値があるのかが、やっている本人も分からないような仕事を担当して、希望も自信も持てるはずはありません。
日本企業は伝統的に、あるいは雇用慣行として、労働者の心の状態を大切にしてきており、欧米のような、労働者が資本家や経営のツールとして扱われてきた国とは違います。もちろん、昔も今も一部そうともいえないケースはありますが、全体として働く人たちの気持ちを重視してきたことは間違いありません。過去において、心理的資本は日本企業の一番の強みであったとさえいえると思います。心理的資本の重要性は認めるとしても、この点は見逃してはならないでしょう。(川口 雅裕)
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