「10年で3部署」は本当に“時代遅れ”なのか? ジョブローテーションについて、今こそ考える:連載「情報戦を制す人事」(1/2 ページ)
「10年で3部署」のように、定期的な配置転換を実施し、従業員にさまざまな職務を経験させる「ジョブローテーション」。時代遅れと見る向きもあるようですが、本当にそうなのでしょうか。日本企業の現状を紐ときます。
連載「情報戦を制す人事」
人事向けシステムを提供する株式会社Works Human Intelligenceが、人事職なら押さえておきたい最新の人事トレンドや法改正情報を伝えます。
ジョブローテーションとは、定期的な配置転換により、従業員にさまざまな職務を経験してもらう人材育成施策の一つです。例えば入社後、最初の3年間は営業部を経験し、その次は経理部を3年、さらにその次は人事部を3年間経験するといったように、計画的に異なる職務を経験させるものです。
日本では当たり前の施策ですが、海外の人事制度(ジョブ型雇用)では、決められた職務に対して人を採用しているため、人材を異なる職務に動かすことが一般的ではありません。ジョブローテーションは従業員を容易に異動させられる日本型人事制度(メンバーシップ型雇用)でこそ可能なのです。
国内でもジョブ型が広がりはじめ、やや「旧来的な育成施策」としてみなす向きもあるようですが、本当にジョブローテーションは「時代遅れの手法」なのでしょうか。ジョブローテーションの目的やメリット・デメリットをあらためて整理し、国内企業の事例をもとに、実施する上でのポイントを考えます。
企業がジョブローテーションを実施する理由
ジョブローテーションを実施する企業側の目的として、主に下記の3点が挙げられます。
- 自社の業務を幅広く知ってもらう
- 従業員の適性を見極める
- 社内人脈を拡大する
自社の業務を幅広く経験したジェネラリストを育成できる制度のため、幹部候補育成を目的にジョブローテーションを行う企業もあります。一定の期間で異動が行われるため、その都度、従業員の適性を把握しながら配置転換を実施でき、人材の滞留を防ぐこともできます。
また異動する度に上司、同僚と新たな人間関係が生まれます。社内人脈を拡大していくことは、特に将来会社を動かしていくような経営幹部候補にとって重要なことです。
一方で、デメリットとしてスペシャリストが育成しにくいことや、異動を繰り返すために従業員の希望やキャリアとの不一致が起こる可能性が挙げられます。また、本人の希望と一致しなかった場合、退職のリスクも考えられます。
従業員視点のメリット・デメリット
従業員にとってのメリットは、特定の業務だけでなく幅広く業務を経験できる点です。それに伴う人脈の広がりや自分自身の業務適性を把握できること、異動によって新しい仕事につくことで、モチベーションの向上も考えられるでしょう。
また、異動のタイミングや異動後の職務が従業員の希望と一致している場合、もしくは従業員の将来のキャリアを考えた納得感のあるものであれば、従業員にとってモチベーションが向上する施策です。
反面、異動によって専門性が身に付けにくくなることや、描くキャリアと一致しなかった場合のモチベーション低下につながる可能性もあります。「従業員の納得感」は、ジョブローテーション実施の鍵といえるでしょう。
関連記事
- 「優秀でも残念でもない、普通社員」の異動に、人事が関心を持たない──何が起きるのか
社員の異動を考える際、人事部が真っ先に関心を持つのは「優秀社員」と「残念社員」。その間にいる大多数の「普通社員」は後回しにされがちという実態がある。しかし、この層への取り組みを疎かにすると、ある懸念が生まれる。 - 幹部候補か、“万年ヒラ”か キャリアの分かれ目「30代以降の配置」を、人事はどう決めている?
「育成」の観点から異動配置させる20代が過ぎると、多くの企業は「幹部候補の優秀人材」と「それ以外」の社員を選別します。人事は、そうした異動配置をどのように決めているのでしょうか。年代層別の異動配置のロジックをみていきます。 - 「部下を育てられない管理職」と「プロの管理職」 両者を分ける“4つのスキル”とは?
日本企業はなぜ、「部下を育てられない管理職」を生み出してしまうのか。「部下を育てられない管理職」と「プロの管理職」を分ける“4つのスキル”とは? 転職市場で求められる優秀な管理職の特徴について解説する。 - 「優秀だが、差別的な人」が面接に来たら? アマゾン・ジャパン人事が本人に伝える“一言”
多様性を重視するアマゾン・ジャパンの面接に「極めてだが優秀だが、差別的な人」が来た場合、どのような対応を取るのか。人事部の責任者である上田セシリアさんに聞いた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.