「10年で3部署」は本当に“時代遅れ”なのか? ジョブローテーションについて、今こそ考える:連載「情報戦を制す人事」(2/2 ページ)
「10年で3部署」のように、定期的な配置転換を実施し、従業員にさまざまな職務を経験させる「ジョブローテーション」。時代遅れと見る向きもあるようですが、本当にそうなのでしょうか。日本企業の現状を紐ときます。
なぜ日本において、ジョブローテーションが根付いたのか
ジョブローテーションが日本に根付いた背景には、日本型人事制度である以下4つの特徴が存在します。
- (1)新卒一括採用
- (2)無限定正社員
- (3)年功序列
- (4)終身雇用
(1)新卒一括採用
日本では新卒の一括採用を実施しますが、多くの学生には特定のスキルや専門性が身に付いているわけではありません。採用時点ではその学生がどんな職務に向いているのか明確ではないため、入社後にジョブローテーションを行うことで適性を把握していく必要があります。
また多様な職務を経験する中で、「ビジネスパーソンとして成長してもらう」という人材育成面の目的もあります。
(2)無限定正社員
日本の正社員は、雇用を守られる代わりに勤務地や職務を選べない無限定正社員です。従業員は転勤や職務の変更命令に従う必要があるため、企業はジョブローテーション制度を活用することで異動を容易に行うことができます。
(3)年功序列
年功序列の人事制度により、入社した企業で年齢を重ねていけば給与が上がっていきます。海外のように特定の分野でスキルアップしないと、昇給、昇進ができないケースはほとんどありません。そのため従業員視点からすると、ジョブローテーションを受け入れ、社内ジェネラリストとして、その企業で働き続けることに抵抗がない傾向にあります。
(4)終身雇用
正社員は期間の定めのない無期雇用契約を結びます。これを背景に、企業としても従業員を定年まで雇い続ける終身雇用の慣行が日本に根付いていきました。
このような労働慣行の中、ジョブローテーションを実施することが中長期的な視野での人材育成と幹部候補の選別につながっていました。
ジョブローテーションは「時代遅れ」なのか? 日本の現状
独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査(※1)では、53.1%の企業が「ジョブローテーションがある」と回答しており、約半分の日本企業で取り入れられています。1000人以上の企業に関しては70.3%がジョブローテーションを導入しています。
(※1)出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構「企業の転勤の実態に関する調査」/17年10月発表
しかしながら近年、日本型人事制度の限界が指摘され始めています。経団連の中西宏明元会長は、2018年の定例会見で「終身雇用、新卒一括採用をはじめとするこれまでのやり方では成り立たなくなっていると感じている」と発言しました。また、トヨタ自動車の豊田章男社長も日本自動車工業会の会見(※2)で、終身雇用制度の限界を指摘しています。
(※2)出典:日本経済新聞「自工会の豊田会長、日本の終身雇用『守っていくのが難しい局面』」/19年5月13日掲載
このような状況で、「ジョブローテーションは時代遅れ」といわれることもありますが、果たして本当に時代遅れなのでしょうか。
確かに、ジョブローテーションの前提である「年功序列」の制度は急速な勢いで見直しが進んでいます。公益財団法人日本生産性本部の調査(※3)では、非管理職の年齢・勤続給の割合は99年の78.2%から18年では47.1%まで低下しました。
(※3)出典:公益財団法人日本生産性本部「第16回 日本的雇用・人事の変容に関する調査結果」/19年5月発表
一方で、ほとんどの日本企業で新卒採用と終身雇用を前提とした従来のメンバーシップ型雇用が行われている現状もあります。
新卒一括採用は、経団連の会員企業への調査(※4)によると442社のうち95.9%が実施、終身雇用を前提とした退職金制度も、厚生労働省の調査(※5)で80.5%の企業で維持されていることが分かっています。
(※4)出典:一般社団法人 日本経済団体連合会「2021年度入社対象 新卒採用活動に関するアンケート結果」/20年9月15日発表(※5)出典:厚生労働省「平成30年就労条件総合調査結果」
そのため、ジョブローテーションが機能する余地も十分にあると言え、ジョブローテーションを一概に時代遅れと否定することはできません。時代の変化の中にあっても、ジョブローテーションを人材育成施策として有効に活用している企業は多数あります。
ジョブローテーションで重要なポイントは、従業員のモチベーションが向上したり、納得して異動を受け入れられたりすることであり、これは企業の業績向上や離職率の低下につながるでしょう。
記事の後編では、ジョブローテーションの実施にあたり重要となる、従業員の納得感を得るためのポイントや、企業と従業員双方にとって有用な制度にするポイントについて、企業事例を交えてご紹介します。
株式会社Works Human Intelligence
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