「最近の若者はすぐ辞める」と怒る前に知るべき、「仕事が合わない」と言い出す新人の真実:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(4/4 ページ)
“辞める新入社員”が話題になる季節だ。近年は「仕事が合わない」と話す若者が特に目立ち、連合の調査でも退職理由のトップとなっているが、これにはキャリア教育や上司とかかわりが深く関係しているという。「仕事が合わない」と言い出す新人の真実とは――。
「仕事が合わない」を解消する、上司のサポート
前述の通り、新卒入社をした企業を退職した理由のトップは「仕事が自分に合わない」で、40.1%です。ただし、「入社後の新人研修や先輩・上司からの指導やアドバイスがあった」人の場合、「仕事が合わない」を挙げた人の割合は、36.1%に減少。「指導やアドバイスがなかった」人(45.5%)の場合を10ポイント近く下回ることが分かりました。
実は、私が03年に新卒社会人を9カ月間追跡した調査でも、「上司や先輩からの指導やアドバイス」がもたらす情報の有効性は検証されています。
この調査は、「情報ネットワーク (=仕事に役立つ情報を与えてくれる人)」と、「友好ネットワーク(=職場を離れても付き合いがある人)」が新卒社会人のメンタルヘルスに、どのように影響するかを目的に、入社3カ月前から入社半年後まで縦断的に追跡。その結果、入社してすぐに「情報ネットワーク」を構築できた人は、3カ月後のメンタルヘルスが良好で、半年後のワークモチベーションも高いことが分かりました。
仕事に役立つ情報をくれる先輩や上司の存在により、会社組織への適応に成功していたのです。
どんな仕事であれ、外から抱くイメージと実際の仕事にはギャップがあります。これは「リアリティー・ショック」と呼ばれ、ほとんどの新入社員が最初にぶつかる壁です。ギャップには「仕事の内容だけでなく、職場の人間関係」も含まれています。私がこれまでに行った新人社員とのインタビューや調査研究では、ほとんどが上司に関するものでした。
上司が「お前は言われたことだけやっておけばいい」と敬意を示してくれなかった経験や、「自分で仕事を作れ」と突き放された経験が、ギャップを拡大させます。「いつも監視されているような気がして嫌だった」とプレッシャーを感じるケースや、「上司や先輩とコミュニケーションがほとんどなく、1人でPCに向かう時間が多くて不安になった」と打ち明ける、新人もいました。
最初に出会う「上司」の重要性
いずれにせよ、連合の調査結果や私が実施した追跡調査結果が示唆するのは、最初に出会う「上司」の重要性です。
「この会社で〇〇がしたい!」と期待に胸を膨らませて入社した若者でも、上司のサポートがなければ、「なんか違う」と思う。反対に、丁寧にアドバイスや役立つ情報をくれる上司と出会えれば、「へ〜、これ面白い!」と軽やかな気持ちで仕事に向き合うこともできる。
自分らしさとは、自分の中だけにあるのではありません。「半径3メートルの世界」である周囲の人々との関係性の中にこそ存在するのです。
大人たちは、「今どきの若者は〜〜」と非難する前に、まずは自分が動いてください。若者が、「この仕事、面白い!」と目を輝かせるように。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)がある。
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