佐賀県の負担金は? ゲーム理論で導き出した「九州新幹線西九州ルート」:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(7/7 ページ)
「九州新幹線西九州ルート」の新鳥栖〜武雄温泉間の着工の見通しが立たない。理由の1つが「佐賀県の負担金問題」だ。佐賀県は在来線で不満はなく、フル規格の費用負担は見合わない。経済学のゲーム理論によれば、3者が最も合意しやすい負担額は「佐賀県と国の負担減、長崎県の追加負担あり」と試算された。
都市間を結ぶ鉄道は属地主義でもよかった。負担に見合った便益があるからだ。利用者数に偏りがある路線は属地主義では不公平感が出る。新幹線の枠組みも属地主義から応益主義に転向すべきではないか。そして国の応益が大きいのであれば、国が応益に応じた負担をすべきだ。「地方につくってやるから地方が金を出せ」というやり方は横暴に見える。国のためにつくるなら国が金を出すべきだ。
応益を判断するに当たり、便益に関する情報が提供されないという状況もおかしい。相手を説得するために必要なデータは使ったほうがいい。
国と佐賀県の「幅広い協議」は6回開催され、この6月で開始から2年になる。しかし両者の考えが噛(か)み合っていない。フル規格新幹線にこだわらず、選択肢をすべて検証していくとして始まったけれども、6回目の協議資料を見ると、佐賀県はフリーゲージトレインに固執している。「たとえ現在は課題が多くとも、課題解決まで気長に待つ。それまでは対面乗り換えで差し支えない」という。一方、国は「フリーゲージトレインは技術的に困難」という立場を崩さない。平行線のままだ。
すぐにフル規格で開通した場合と、フリーゲージトレインを待ち、対面乗り換えを続けた場合、それぞれの便益と費用を元にゲーム理論で決着をつけた方が良いように思う。意地を張り合うように見えるけれど、冷静で理論的な選択をしてほしい。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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