トヨタは10年越しの改革で何を実現したのか? 「もっといいクルマ」の本質:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/6 ページ)
素晴らしい決算を出した裏で、一体トヨタは何をやってきたのか。サプライチェーンの混乱というアクシデントをカバーする守りの戦い、そして台数を減らしても利益を確保できる攻めの戦い。そこにあるのが「もっといいクルマ」だ。
月が変わって、今さら決算の話でもないかもしれないが、当期もまたトヨタの決算はエグかった。とりあえずその感触をつかむために、前期と当期の諸々の数字を比較してみよう。
- 販売台数は、部品不足の最中でありながら、764万6000台から823万台(107.6%)の成長。
- 営業収益は27兆2145億円から31兆3795億円(115.3%)に。
- 原材料高騰の中、営業利益は2兆1977億円から2兆9956億円(136.3%)に。
- 営業利益率は8.1%から9.5%に0.6ポイント増加。
- 税引前利益は2兆9323億円から3兆9905億円(136.1%)に。
まあ、スゴいとしか言いようがないのだが、今回の趣旨は、このまま詳細な決算の分析を続けることではない。こんな結果を出した裏で、一体トヨタは何をやってきたのかを追いかけたいのだ。
コロナ禍において何が起こったのか
まず、経済が荒れて強い向かい風が吹く中で、これだけの良い数字を出すために何が必要だったのかを簡単に説明しよう。全てのスタート地点にあるのはコロナ禍である。グローバルに分業体制を敷いている自動車産業の場合、東南アジア地域などのロックダウンでサプライチェーンが寸断した(記事参照)。
最初は特定地域のロックダウンに端を発する限られた部品の不足だったのだが、それらの部品が作れないことで連鎖的にクルマそのものの生産が滞り、その結果、生産に問題のない他の部品も受け入れが止まった。そうなると多くの国々から最終組立地である日本に集積してくる大量の部品は、生産が順調なときと同じペースでは、受け入れられない。
あちこちで物流が緊急停止を余儀なくされた結果、港や倉庫で出荷や荷受けが滞り、荷物を積んだまま待機となった船やコンテナが回転しなくなって流通が詰まる。そうやって混乱がドミノ倒しのように拡大していった。余る部品と足りない部品が錯綜(さくそう)し始める。
つまり、当期の決算で最大の懸念は部品不足による生産の停止である。自動車メーカーが事業の源とするクルマを作れないのだからそれは大変な話である。
次に、部品の不足と物流の混乱の影響で、必要な部品と原材料の奪い合いになって価格が高騰した。
これをどう乗り越えるのかが当期決算の最大の経営課題だったわけで、そこをほかより上手くやったからトヨタは空前の成績を収めたのだ。
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