現場から見たTNGA改革 トヨタ副社長インタビュー(2):池田直渡「週刊モータージャーナル」【番外編】(1/2 ページ)
トヨタは「変化に対応し続ける強いモノづくり集団の育成」を目指して改革プログラムを実行中だ。その中心にいる河合副社長が語るTNGAとは?
トヨタ自動車は「変化に対応し続ける強いモノづくり集団の育成」を目指して改革プログラムを実行中である。その中心にいるのが、生産現場から叩き上げて副社長にまで上り詰めた河合満氏だ。
前回は現場から見たトヨタ生産方式とカイゼンの実態を聞いた。今回はTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャ)戦略について話を伺っていく。
トヨタは日米を襲ったリーマンショックで、第1の母国である日本経済と、第2の母国である米国経済という両翼の浮力を失い、2008年に大赤字に沈んだ。そこから恐るべき回復を見せて再びトップに返り咲いたが、1度停滞した研究開発の遅れを取り戻しきれずに、フォルクスワーゲンに追いつかれ、トップを奪われた。この一連の流れを止めて、最強の会社に生まれ変わる改革がTNGA戦略だ。
TNGAはよく部品共用、あるいはモジュール化によるハードウェア改革だと勘違いされているが、本質はそうではない。クルマづくりにまつわるすべてを変える、トヨタ強靭化プログラムなのだ。(以下、敬称略)
TNGAは「全員が関わること」
池田: 現在トヨタではTNGA改革が進んでいます。TNGAはトヨタだけでなく、これからのクルマづくりを変えていく巨大な改革だと思っているのですが、プリウス、C-HR、カムリと、ここまでうまくいっているように見えます。生産現場から見たTNGA改革はどう見えるのでしょうか?
河合: TNGAは何かと言えば、トヨタは長年に渡って車種をものすごく増やしてきました。その結果、部品点数が膨大になってしまいました。ボルト1つ取ってみても、かなりの種類になったんです。同じシャシーでも車種が違うと同じような部品を組み付けるのにボルトが違う。TNGAではそれを統一しようと。車種ごとでやっていたことをシャシー単位で共通化しようと、つまり部品点数を全体でうんと減らすということです。
強度とか機能が間に合うなら個別の設計である必要はないんです。生産の現場から見れば、ボルトが違えば、工具が変わる。同じ規格の部品だったら、そのたびに工具を持ち替える必要がないんです。細かいことですが、効率カイゼンとはそういう細かいことの積み重ねです。ボルトだけでなく、こうして部品を共通化することで何割というレベルで部品種類が減ります。
今はまだ過去の設計とTNGAが混流しているので、一時的に部品種類は増えてます。しかし、これがTNGA改革が進むに連れてどんどん部品種類が減っていきます。やがて部品種類を大幅に減らせる見通しができています。
池田: つまりTNGAとは部品を共通化させることなんでしょうか?
河合: いや、そもそもTNGAは、もっと大きな取り組みです。一言でいえば「全員が関わること」なんです。
例えば、今組み立てをやっている人が、「まったく同じような使い方なのにボルトの頭が1ミリメートル違うのはなぜなんだ?」と気付き、そして提案すれば、トヨタのすべてがスリム化していくんです。物流だって同じ。例えば、同じようなホースを運んでくるパレットが車種ごとにまちまちなサイズになっている。荷姿が違えば、トラックに積む時だって効率が悪い。工場内で搬送する仕組みだってサイズの変化に対応しなくてはならない。
バラバラなサイズであることのデメリットが明らかなのに、それを共通化しようという知恵が出せなかった。知恵というのは、例えば大きさが違う部品があるならパレットの中で樹脂製ダンボールとかの仕切りを用意すれば、パレットのサイズは大中小の3つくらいに統一できるはずです。パレットのサイズが統一されれば、トラックでも部品置き場でも積み重ねて置ける。効率が大幅に変わるんです。
効率のカイゼンというのは、結局、働く人が楽になること、楽になれば仕事の確実性が上がってミスが減る。そういうすべての改革の原点は社員全員の知恵なんです。TNGAを成功させるにはすべての社員が関わり、すべての業務に対して知恵を出すことです。
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