現場から見たTNGA改革 トヨタ副社長インタビュー(2):池田直渡「週刊モータージャーナル」【番外編】(2/2 ページ)
トヨタは「変化に対応し続ける強いモノづくり集団の育成」を目指して改革プログラムを実行中だ。その中心にいる河合副社長が語るTNGAとは?
池田: 総合的な改革なんですね。そして、カイゼンはやはり無限に続くということでしょうか?
河合: TNGAは1度できたらすべて終わりじゃないんです。モノづくりというものは例外なくそうなんですが、TNGAもどんどん進化していかなくてはならないんです。お客さんのニーズも進化する、クルマ自体も進化する。もちろんつくり方も進化します。
例えば、プリウスとC-HRは同じ骨格を使っていますが、つくり方はデビュータイミングの差分だけ進歩しています。同じものだから同じつくり方じゃないんです。モノづくりの現場から言えば、結果が同じなら過程は変えても構わない。いかにシンプルに、いかに安くするかの工夫のしようはいくらでもあります。鉄板を加工して製品にするとして、売値が変わらないなら原材料費と加工費しかカイゼンの余地はありません。購買を工夫してコストを落とすだけじゃなくて、加工のやり方でコストを落としていく、そのカイゼンが大事です。
「トヨタではカイゼン後はカイゼン前」と言うのです。やればやるほど面白いくらいにどんどん新しいことが見えてきます。乾いた雑巾に見えても、入梅に湿気を吸ってまた絞れるようになっているというのがカイゼンの面白さです。棋士の羽生善治永世七冠が「将棋の本質はまだ分かっていない」とおっしゃったように、どこまでいっても極めるなんてことはないんです。
池田: なるほど本質ですか。いきなり核心部分を尋ねますが、TNGAの本質とは何でしょう?
河合: TNGAだけでなく、そもそもトヨタ生産方式の本質は、リードタイムの短縮です。材料を買って、それがクルマになって出ていく。そのリードタイムをいかに短くするかなんです。でも、そういう結果を出すには、現場の小さいカイゼンがないとできません。それがあった上で、上の人がそれを統合して改革を行う。下から上まで全員が関わってカイゼンを行うことがトヨタ生産方式です。
池田: つまり、トヨタ生産方式とTNGAの本質は同じなんですね。車種間での部品効率化など少しカバー範囲が違う部分はあれど、本質の部分は変わらないと。これからTNGAは全世界に広めていかなくてはならないわけですが、そのためにやらなければならないことはありますか?
河合: われわれが1番怖いのは、TNGAで開発した手法が全世界に展開されるわけですから、何か問題が起きたときに同じことが全世界で起きるわけです。リスクはめちゃくちゃ大きくなる。そのために内部でも相当危険予知をやったりして、そういうことが起きないようにしていますけど、ボクの立場から言うと、そういう危険予知を確実に行いつつ、もっとシンプルでスリムでつくり易いことを展開しなければと思います。
池田: 生産現場から見た「もっといいクルマ」についてはいかがでしょう?
河合: 今は車両設計も生産技術も技能工も一緒になってクルマづくりを行うようになっています。お客さんに影響がない、つまり、走る・曲がる・止まるに関係ないんだったら、ここはつくり易い方が良いだろう。でも、これはお客さんが喜ぶから、絶対キーポイントだから、たとえつくり難くてもやろうと。
こういうのを全部、生産段階に入ってから、何とかしようとしても無理なんです。だからクルマを設計する段階から全部一緒にやるんです。そうじゃないと「これは海外では無理だろう」という技術を世界展開しようとして、できないという結果になります。
でもね、全部つくり方が同じである必要はないんです。人件費がうんと安い国に行くと、自働化のコストがかけられない。人がやった方が安いんです。アジアにはそういうところがいっぱいあります。ところが、こういう国の人、例えばタイの技能工とかには、日本の技能工より手先の器用な人がたくさんいます。自働化しなくても手作業でわれわれのクオリティをしっかり満たすクルマがちゃんとつくれるんです。(次回へ続く)
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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