カイゼンの源泉 トヨタ副社長インタビュー(最終回):池田直渡「週刊モータージャーナル」【番外編】(1/2 ページ)
トップダウンとボトムアップの両方向からの力でトヨタのカイゼンは行われている。トヨタの河合満副社長のインタビュー最終回は、そのカイゼンの源泉となる知恵が出てくる仕組みについて聞いた。
一人一人が改革に関わり、知恵を出し、細かい改善を積み上げる。いわばボトムアップのカイゼンが最初にあり、それらを統合してシステム化、あるいは一般化するトップダウンがある。その上下両方向からの力で、永遠の輪廻のようにトヨタ自動車のカイゼンは続いていくという。
トップが常に業務カイゼンを目指すことは不思議でも何でもないが、ボトムアップは生産現場の一人一人が問題意識を持たなければ不可能だ。トヨタの河合満副社長のインタビュー、最終回となる今回は、そのカイゼンの源泉となる知恵が出てくる仕組みについて聞いた。(以下、敬称略)
トヨタは50年前から創意工夫が根付いている
池田: 先ほどカイゼンは全社員が参加して行うものだとおっしゃっていましたが、職種や階級や世代が違う多くの社員がいる中で、考え方や優先順位もそれぞれ異なるはずですよね? 一般的に言えば、コンピュータ制御ロボットでどんどん自働化を進めたい生産技術と、現場の知恵やコツでもっとできると考える技能工とが同じ結論を共有できるのでしょうか?
河合: もちろん計算でやらなければならないところもありますが、現場の知見は大事です。知見がない若い技術者から見ると一見無駄なことがたくさんある。「こんな面倒くさい手順は止めて楽にしよう」みたいなことが起きるんですが、知見として「こうするとダメ」とか、「こういうことで過去に大変な問題を起こした」みたいなこれまでの長い経験があって、それが引き継がれているんです。
もちろん、全部今まで通りじゃダメですよ。「これは良いけど、これは止めろ」と。そういう生産技術と技能工の二人三脚で、より良い生産ラインが作られているんです。
池田: なるほど、すると技能工の技術レベルアップと経験の蓄積はとても重要になってきますね?
河合: だから技能研修に力を入れてます。専門技能についての教育に1人約40時間かけて全員を対象にレベルアップを図っています。さらに技能交流会というのがあって、各工場の中で部門別に技術を競い合うんですよ。各工場で勝ち抜くと、今度は全国の工場から選抜された選手でまた戦う。そうやって現場力を高めています。
池田: 河合さんはTNGAは「全員が関わること」だとおっしゃいましたね? もっともだと思う一方で、社員すべてがそんなに会社のことを考えてくれる体制というものが簡単にできるとは思えないのですが、そこにも何か仕組みがあるのではないですか?
河合: 会社が変わっていくためには、結局、現場の創意工夫がキモになってくるんです。トヨタでは50年前から創意工夫制度があって、彼らも新入社員のときからその制度の中でやってきてます。
「こっちでやった方が早いじゃん。良いものができるじゃん。不良品が出ないじゃん」。小さなことだってそういうカイゼンを積み重ねていくんです。そういう工夫をすると「よし、お前良いこと考えた。1000円やろう」と、そういう制度になっています。
内容によって500円から最大10万円まで、工夫したら工夫を買ってもらえる。工夫によって自分たちも楽になるし、安全になるし、品質も上がるし。何より自分がカイゼンしたことが目の前で形になって生かされるのでモチベーションが上がるんです。
職場の皆から「良いな!」って言われたら「もっとやろう!」という気持ちになるんです。腕を上げれば上げるほど、お金にもなるし、ポジションも上がっていく。次に新しいラインを作るときに「お前ちょっと来て知恵を出せ」と。そういう新しい仕事もやらせてもらえるわけです。
池田: カイゼンが楽しい仕組みづくりということですね。日本の労働者のモラルならそういうこともあるだろうと思うのですが、TNGAは世界中で進める改革ですよね? 海外の人はそんな風に仕事にモチベーションを持てるのでしょうか?
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