カイゼンの源泉 トヨタ副社長インタビュー(最終回):池田直渡「週刊モータージャーナル」【番外編】(2/2 ページ)
トップダウンとボトムアップの両方向からの力でトヨタのカイゼンは行われている。トヨタの河合満副社長のインタビュー最終回は、そのカイゼンの源泉となる知恵が出てくる仕組みについて聞いた。
河合: 海外でできるのかと言いますが、例えば、ブラジル人の中には給料もらうと、毎月自分で決めた額だけレンガを買ったりする人がいるんです。それでコツコツと自分で家を建てる。今では日本でもDIY(Do It Yourself)みたいなことが言われていますが、海外の人はそういう文化を元々持っています。
「モノをつくる」ということは、世界中の皆が好きなのです。かつては決まった仕事をノルマ的にやらせようとばかりしてきたのですが「いや、アイデア出して、何かやってみていいよ」と言ったらどんどんやりますよ。インドの工場に視察に行ったら、インド人の技能工が流ちょうな日本語で「すごいの作ったから見て!」って自信満々の得意顔で搬送システムを見せるんですよ。モノを置くと自重でアームがターンして、モノを移動させて戻る仕組み。だけど、しばらく見ていたら引っ掛かって止まって「あ、失敗失敗!」と、もう1度やってみせる。それは本当に楽しそうなんです。
池田: モノづくりは誰でも根本的に好きだと言われてみるとそうかもしれません。ちょっと急にはイメージできない部分もあるのですが……。
河合: 今まではそういう創意工夫をやらせなかっただけで、やらせればできます。それで1人やると「俺も、俺も」と競争が起きるんです。「俺はあいつよりもうまいものが作れる」って。だから自分でいろいろなことを試して、カイゼンをやって良いという姿勢で臨むと、どんどん楽しい職場になって、自発的にカイゼンをしたくなるようになるんです。
池田: そうなるとマネジメントも変わらないといけないですよね?
河合: 昔はホワイトカラーとブルーカラーみたいな境目がありました。でもね、今のトヨタはボクみたいな現場出身の人間が副社長になったりするわけです。向こうの人たちが「何で河合さんみたいな人が副社長になるんだ?」って不思議がるんですけど、「んなもん知るか! 社長が決めたことだ」って(笑)。ボクだけじゃなくて、どんどん後輩たちも育っているよと。
インタビューを終えて、話を振り返ってみると、筆者はそこに日本という国を再発見したような気がした。欧州の国々はいまだに階層社会を引きずっている。敗戦国である日本とドイツは、階層をすっかり破壊され、代わりに誰にでもチャンスが生まれた。そうした破壊と創造によって、日独は戦後飛び抜けた発展を遂げたと言える。階層破壊がもたらした平等。創意工夫と努力によって自分で道を切り開いていける社会。そういう国だったはずだ。
戦後70年を経て、今その階層を自由に飛び越えられる社会の風通しがおかしくなっている。むしろ文中にあるように海外での自由さが拡大して、その結果、多くの人が日本の閉塞感に絶望している。その中で、チャンスをつかんで伸びていける社会をトヨタは再構築しようとしているように見える。
先進国でのモノづくりがいつまで続くのかと懐疑的に見る人がいる一方で、まだまだ大丈夫だと、カイゼンの余地は永遠にあるのだと言う人がいる。トヨタという巨大企業が日本社会に与える影響はとても大きい。彼らがもう一度風通しの良い自由な未来を取り戻してくれることを願ってやまない。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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