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トヨタは10年越しの改革で何を実現したのか? 「もっといいクルマ」の本質池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/6 ページ)

素晴らしい決算を出した裏で、一体トヨタは何をやってきたのか。サプライチェーンの混乱というアクシデントをカバーする守りの戦い、そして台数を減らしても利益を確保できる攻めの戦い。そこにあるのが「もっといいクルマ」だ。

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サプライヤーいじめではなくサプライヤーのサポートへ

 最初の成績抜き出しに戻ってほしい。こういう環境下でトヨタは生産台数をちゃんと伸ばした。もちろん、台数は前年比なので、すでにコロナ影響下にあった前年との比較ではあるが、それでもプラスにしたからには、そこにも秘密があるに違いない。

 一体何をしたのか? もちろん巨大なサプライチェーン全体の交通整理が最も重要であり、こんがらがった糸をほぐして、必要なものを必要な時に必要な場所へ届けるという当たり前のオペレーションが基本になる。まずはこのコントールが上手かったということがあるだろう。これは対症療法としてのオペレーションである。

 しかし、トヨタはコロナ禍以前から粛々とサプライチェーンとの連携政策を進めてきていた。そのひとつが「品質・性能適正化特別活動(SSA)」である。サプライヤーはメーカーに忖度(そんたく)して、本当は使える部品まで検品でハネる傾向にある。ユーザーに見えないところで使う部品の小さな傷や色むらなどは、性能に影響を与えないし、ユーザーの「うれしさ」にも貢献するわけでもない。

 しかし、サプライヤーはメーカーの機嫌を損ねるのが怖いから、自主的にそういう部品を不良品として棄ててしまう。そこで、トヨタは、自社のエンジニアをサプライヤーに派遣して、部品の検品基準を再策定した。買手であるトヨタが責任持って検品の合格ラインを決め、サンプルを作って基準を共有する。サプライヤーは、今まで廃棄していた部品を安心して納品できるようになる。そうすることで、サプライヤーの歩留まりが上がるし、部品の納品数が増える。極論をいえば、他社に納品できない部品もトヨタなら納品を受けてくれる。

 あるいは、設備のトラブルや火事、地震などの災害が起きた時、トヨタは早急に復旧支援隊を派遣して、サプライヤーの問題解決を支援する。もちろんサプライチェーンを一刻も早く復旧させるためだ。

 生産に必要な設備も都度新規で開発せずに済む方法をサプライヤーと一緒に考え、既存設備の改造方法を提案し、場合によってはそれらを一緒に作り上げる。もちろん作業手順の合理化や効率化も現地で一緒に考える。本来廃棄される古い設備を再利用することによって設備投資が減ってサプライヤーの利益が増える。もちろん一部は部品のコストダウンになってトヨタにも還元される。

 これらが何を示唆するのかといえば、サプライヤーの困り事に、いちいち丁寧に向き合い、協力して問題を解決することが、メーカーの利益につながることをトヨタは理解し、積極的に協力しているということだ。それはまさに「情けは人のためならず」であり、結局全てはトヨタに返ってくる。ただの美談ではないのだ。

 困り事に直面した時、問題解決のためのチーム派遣を受けて、復旧したサプライヤーは、今回のような緊急事態を迎えた時、限られた部品の納入先として、どこを優先するだろうか?

 そうやって、厳しい状況下でも、サプライヤーと協力して、部品の不足問題を解決していった。だから台数が落ちるどころか成長が可能だったのである。

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